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貯金20万円のアラサー女子が一念発起!“ゼロから始める投資思考” ②投資とは、遥か遠く先の未来と向き合うこと~JA横浜「資産運用セミナー」イベントレポート

その熱量に、圧倒された。メモしていた手が思わず止まった。身振り手振りを交えながら、受講生ひとりひとりに目を合わせて語る奥野さんの様子に、驚いた。そしてふと、疑問が浮かんだ。この人はなぜこんなにも「投資家の思想」を届けようとしているのだろうか、と。

それは、6月29日にJA横浜で開催された資産運用セミナーでのことだった。JA横浜の組合員向けに、NVICの最高投資責任者(CIO)・奥野一成さんが話をすることになったのだ。
私は、投資について学んだことなどこれまでの人生でほとんどない、ど素人である。30歳を目前に控え、ようやっと重い腰を上げて勉強しようかな、と思っていた矢先、イベントのレポートを書く機会をいただいた。日本における長期厳選投資のパイオニアである奥野さんのお話を直々に聞きながら投資の勉強ができるなんてこれほど幸運なことはないじゃないかとほくそ笑みながら、私は意気揚々とJA横浜・瀬谷支店に向かった。

外に立っているのがちょっと辛くなるくらいの、暑い日だった。今回の会場である瀬谷支店に着くと、真っ先に野菜の直売所が目に入った。よくよく見てみると、「『ハマッ子』直売所瀬谷店」と書かれている。直売所の前には、ピンクや黄色、紫など、色とりどりの花の苗が売られていた。表の壁には「地産地消宣言」という文字が並ぶ。地元の人たちがちらほらと出入りしたり、和やかに談笑したりする様子も見えた。

JA=農業協同組合とは、農業を営む人々が、互いに助け合うことを目的とした組織だ。農業を営むには、何かとお金や工数がかかる。生産物をつめるには、段ボール箱やプラスチック容器が必要だ。野菜や果物によっては、防虫用のネットやシートも必要になるだろう。そういった生産資材を整えたり、営農や生活の指導をしたり、はたまた、貯金の受け入れや生活資金の貸付をしたり。営農に関わる困りごとを仲間たちみんなで解決していこう、というのがJAの役割である。

JA横浜ではこういった組合員向けのセミナーなども定期的に開催しているようで、今回は「人生を豊かにする長期投資」というテーマで、奥野さんが話をすることになった。

広々とした会場には、だいたい30人くらいだろうか、男女問わずさまざまな人が机に向かい、講演がはじまるのを待っていた。
「今回ここに来ているのは、各エリアの代表者たちなんです。だから、奥野さんのお話も、代表者の方達から、エリア全体に伝わっていくと思います」と、瀬谷支店の職員の方がちらりと教えてくれた。そうか、個人の利益のためだけに参加しているのではないのだ。

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さて、奥野さんのセミナーがはじまった。正直なところ、私はちょっと不安を抱いていた。というのも、はじめにも書いたとおり、私は「お金」について考えるのが大の苦手なのだ。株式投資や複利といったワードを耳にするだけでもちょっと身構えてしまうくらいである。
だから、そんな私でもちゃんと奥野さんのお話についていけるのだろうか、という懸念があった。絶対に聞き漏らしてはならないと固く決意してボールペンを手に取った。

ところが、だ。
驚くべきことに、話がすすめばすすむほど、面白いのである。投資をしたくなるのである。ああ、そうか、投資ってそういうことだったのかと、視界がパッと開けていくような感覚があった。

「僕のやっている長期厳選投資は、『売らなくていい会社しか買わない』がモットーです」

力強い声で、奥野さんが言った。

「『投資』と聞くと、どなたも、東京証券取引所の電光掲示板の前で、一喜一憂する人を思い浮かべるんじゃないでしょうか。ああ、株価が下がってしまった、買ったのは失敗だったかもしれない、とか。さっき売った企業の株価が上がっている、やっぱり売らなければよかった、とかね」

そう言われて、ちょっとどきっとした。たしかにそうだった。株といえば「売買する」のが大前提。いかに安く株を買い、いかに高く売るか。その差で儲けるのが投資なんじゃないか? と思っていたからだ。

「これは投資とは呼びません。投機です。つまり、ギャンブルと一緒です。僕がみなさんにおすすめしたいのは、そういったやり方ではありません。株式投資とは、株を買うことによって、その企業のオーナーになることなのです」

オーナーとして長期投資することにより、社会に価値を創出する。これが株式投資の基本原則であると奥野さんは語った。
日本人はどうしても、汗水を垂らして自分でお金を稼ぐことをよしとするきらいがある。けれどじつのところ、収入を増やす選択肢は「自力で稼ぐ」ことだけではない。「他力で稼ぐ」ことも含まれているのだ、と。投資家として「構造的に強靭な企業®︎」を見極めようと学び続けていると視座が上がり、経営者の目線でものごとを見ることができるようになる。すると結果的に、仕事に取り組む姿勢も変わり、本業のパフォーマンスや収入も向上する。「他人に働いてもらおう」というマインドが、「自分で働く」ことにも相乗効果をもたらすのだ。

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「投資」にたいして抱いていた固定観念が、みるみるうちに壊されていくのがわかる。奥野さんから伝わってくる熱量に、メモを取る手が止まってしまった。ふいに、セミナーがはじまる前、奥野さんがぽつりとつぶやいていた言葉を思い出す。

「僕は、今日の話をぜひ、お子さんやお孫さんたちに伝えていってほしいんです。もちろん、組合員さんたちの人生にも活かしてほしいんだけど、それ以上に、次の世代に繋いでもらいたいんですよね。勉強したり本を読んだり、自分の持つ資産を自分のために費やす。そういった『自己投資』は、若いときにこそやるべきだと思うので」

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会場を見渡す。なかには高齢に見える方もいた。もしかしたら彼らの息子さんや娘さん、お孫さんたちが成長して、同じように農業に励むようになるのかもしれない。そうなったとき、自己投資の意識を持っているのといないのとでは、収入にも雲泥の差が出てくるだろう。

投資とは、遥か遠く先の未来と向き合うことなのではないか、とふと思った。ずっと先の未来のために、会うことは一生ないかもしれない未来に生きる人々のために、価値を提供する。それが巡り巡って、自分の幸福につながっていく。あるいは奥野さんがこうしてさまざまなところでセミナーをしたり、本を出版したりして、「投資家の思想」を広めようとしているのも、彼なりの「投資」のひとつなのかもしれない。

「今日は、ありがとうございました!」
セミナーを終え、職員の方々に見送られながら会場を出る。帰りがけ、奥野さんとともに直売所に立ち寄った。珍しい種類の野菜や、手づくりのジャム、トマトソースなどが売られている。店員さんと直売所を訪れた人が、なんだか楽しそうに話をしていた。

美味しそうなドライフルーツがあったので、思わず手に取ってレジに向かう。地元の人々のコミュニケーションの場になっているこの場所の、暖かい雰囲気に包まれていたとき、ふいに、セミナーで学んだ言葉が浮かんできた。
「JAは、すごく真面目なんです。困ったことがあったら、みんなで解決して助け合いましょうというのが、協同組合制を軸とする系統金融機関の仕組みです。だからこそ、JAの人たちは、組合員に変なものは売れない。変なものを売ると、自分に返ってくるかもしれませんからね」と、奥野さんは言っていた。親身になって相談に乗りながら、組合員にとって最適な問題解決方法を探す。それがJAのいいところだ、と。

ここにいる人々の様子を見ていると、その言葉の意味がわかったような気がした。互いに互いを助け合い、今ある価値をより大きなものにしていきながら、さらに次の未来へと繋げようとしている。今回、奥野さんが話した「投資家」の視点も、エリアの代表者からエリア全体へ、その子どもたちへ、次の世代へと、脈々と引き継がれていくのかもしれない。

さて、私はこれからどんな投資をはじめようか。どんな未来をつくっていこうか──。そんなことを考え高鳴る胸をおさえながら、瑞々しい野菜たちが並ぶ直売所をあとにした。


NVIC note編集部です。レポートの冒頭部分の熱量を変な文章で邪魔したくなかったので、NVIC note編集部のコメントは最後に置かせていただきました。

読んでいて気づかれていると思いますが、今回も前回に引き続き川代さんに取材していただきました。今回は、NVICにとって大切なJA系統でセミナーを開催させていただいた時のレポートです。今回も、川代さんの目から見た「投資」観を存分に味わうことができるレポートになっているかと思います。今後も川代さんに取材していただく予定となっておりますので、楽しみにしていてください!