日本と世界の主要国との保険制度の違い

1――はじめに

日本の保険制度は、めちゃくちゃ優秀です!

留学や海外赴任で海外に住まなければ各国の保険制度の違いなんて気にする機会なんてないですよね。

今回の記事は、日本と人口や経済の規模、社会状況等の面で近しい英国、米国、フランス、ドイツの4国を取り上げ、各国の医療の仕組みを比較していきたいと思います。

前提知識として
今回取り上げる国の医療制度の方式を紹介しておきます。

「社会保険方式」・・・日本、ドイツ、フランス
「税方式」・・・イギリス
「公的医療限定方式」・・・米国

2――日本の医療制度

日本では、安心して医療を受けられるように国民全員が公的医療保険に加入しています。
国民皆保険制度という仕組みです。
国民一人ひとりが保険料を出し合って助け合っています。

この医療制度が持つすばらしい特徴としてよく例にあげられるのは

  • フリーアクセス
    患者さんは保険証1枚さえあれば医療機関を自由に選ぶことができる

  • 現物支給
    窓口負担だけで診療や薬の給付など、必要な医療サービスを平等に受けることができる

医療サービスを受ける方は、一定の自己負担(原則3割、75歳以上1割、義務教育就学前2割等)が発生し、この窓口での自己負担だけで診療や薬の受け取りが出来ます。
ただ「高額療養費制度」というものがあり、年齢・所得に応じて医療機関や薬局での支払い額が1カ月のうちに一定額を超えた場合には、それ以上は自己負担しなくてもよい制度があり、医療費を原因として国民が経済的に困窮することを避ける仕組みが設けられています。
これは、他国には同等・類似の制度があまり存在しない、日本の医療制度独自の良い仕組みとして評価されています。

3――英国の医療制度

「税方式」の代表国です。

国民保健サービス(NHS:National Health Service)という国営機関が医療を提供しています。NHSの対象利用者はイギリス国内に住所を持つ方に限定しています。
利用者は、窓口での自己負担や保険料負担はありません。原則無料で医療サービスを受けることが出来ます。
(外来処方薬については一定の自己負担があります)。

ただ日本のようにフリーアクセスではなく、かかりつけ医制度が厳密に運営されており、予め登録したかかりつけ医の診察を受け、必要に応じ、かかりつけ医の紹介を受けて専門医を二次受診する仕組みとなっています。
家庭医の紹介がないと二次診療を受け付けてもらえません。

窓口での自己負担等がないのは家計的にも嬉しいことですが、
NHS医療機関は常に混雑しており、診療を受けたい時にすぐに診察を受けることが困難な場合が多いようです。

4――ドイツの医療制度


世界で最も早く公的な医療保険制度を導入した国がドイツです。
低所得層や特定の従業員を対象に発足した公的医療保険ですが、現在では国民の約9割が加入している状況です。

学生、年金受給者、失業者等は公的医療保険に加入する義務が課せられていますが公務員、自営業者、報酬の高い被用者等は加入義務を免除されています。公的医療保険に加入する場合には任意加入者として加入します。

2009年以降は、公的医療保険に加入しない人に民間医療保険への加入義務が課されるようになり、官民の医療保険をあわせて、事実上の国民皆保険制度になっています。

公的医療保険の実施者は

  • 「地区疾病金庫」・・・主に地域住民や学生、失業者等が加入

  • 「企業疾病金庫」・・・主に大企業の被用者が加入

であり、保険料の設定や一定範囲の保険給付の内容については各疾病金庫が独自に定めています。
※現在は利用者がどの疾病金庫の医療保険に加入するかを選択できるようになっており公的医療保険実施者間の競争を促進しています。

公的医療保険の財源は労使拠出の保険料で、税による補填は原則行われていません。

イギリスほど厳格なかかりつけ医制度ではありませんが、かかりつけ医の紹介状を持たずに専門医を受診した場合には10ユーロを負担する必要があります。その為、利用者の約9割がかかりつけ医を持つようになっており、事実上のかかりつけ医制度が機能しています。

入院、薬剤等について、利用者には自己負担がかかりますが、一般患者は年間所得の2%まで等、一定の自己負担限度額が設けられています。

5――フランスの医療制度

職域ごとに設けられた被用者対象の公的医療保険
自営業者等の非被用者を対象とする公的医療保険
などが保障を提供しています。

公的保険による国民のカバー率は99%で、ほぼ国民皆保険状態にあります。
窓口での自己負担は、外来3割、入院2割等で設定されています。

特徴的なのは、
外来受診の際に窓口でいったん医療費全額を支払わなければなりません。
後日、自己負担分を除いた金額が償還されます。
入院等の場合は、自己負担分だけを支払う日本と同様の形で支払います。

自己負担分を補填する商品を民間保険会社が提供しており、民間の補足的医療保険に加入することが通例です。
この民間医療保険は、保険料が収入に応じて設定されます。
また低所得者については税財源により無拠出で加入できる仕組みがあるなど民間保険でありながら公的な側面も有しています。

ドイツ同様に、かかりつけ医制度が浸透しており、利用者はかかりつけ医を通さずに自由に専門医を受診することもできますが、その場合には医療費の5割を負担しなければなりません。
一方、公的医療保険にかかりつけ医を届け出すれば、そのかかりつけ医を通して専門医を受診した場合には3割負担だけです。
2007年時点で85%の利用者がかかりつけ医を持っています。

6――米国の医療制度

もう一つ、米国は、国民全般を対象とする公的医療保障制度を持たず、公的医療保障制度の関与をできる限り小さくしようとする「公的医療限定方式」とでも呼べそうな体制を採る国です。「公的医療限定方式」の国は世界でも少数派です。


米国の的な医療保障制度は、2種類あります。

「メディケア」・・・65歳以上の高齢者および障害者を対象に連邦政府が提供している
「メディケイド」・・・低所得層を対象に州政府が提供している

現役世代は、民間保険会社の医療保険に加入することしか医療保障を手にいれる手段がありません。

自由競争と自己責任の尊重といった米国流の考え方があり、医療においても同様です。国の保護をあてにするのではなく自分の力で保険を準備しなければならない現状です。
「競争を勝ち抜いて質の高いサービスを提供する者が高い報酬を得ることができる」このような風土で米国は、世界最高水準の医学と医療現場を実現しました。

同時に米国の医療費は非常に高く、国民1人当たり医療費で見ても,医療費の対GDP比で見ても、米国の医療費支出は飛び抜けています。

米国では、企業が福利厚生の一環として、従業員に民間保険会社の団体医療保険を提供していたため、経営環境が厳しくなって、コストのかかる従業員への医療保障提供を行わない企業も増えてきました。企業が準備してくれないのであれば、各個人が自分で民間の保険に加入しなければなりません。
しかし民間医療保険への加入は義務ではなく、無保険者が多数発生し、政治問題となりました。   

オバマ大統領(2009年就任)は、翌年、改革法を成立させ、国民は、メディケア、メディケイド、民間医療保険、いずれかの医療保険に加入しなければならないと義務付けました。また民間医療保険に加入した場合には一定の条件下で補助を受けられることにしました。この医療保険制度改革をオバマケアと言われ(2014年本格実施)、これにより米国でも、官民の医療保険をあわせて、国民皆保険が達成されるはずでした。

しかし補助を受けて民間保険に加入するよりも加入しないで保険料を払わない方が得策と考え、無保険者のままでいつづける人も少なからずいます。
一方で、不健康な状態の無保険者が契約に加入したことにより、保険会社の収支が悪化しました。さらに、オバマケアの撤廃を訴えて大統領選挙を勝ち抜いたトランプ大統領は民間医療保険加入者への税制上の補助策を打ち切ってしまいました。

現役世代の利用者が医療保障の頼りとする米国の民間医療保険では、保険会社と一般医、専門医、患者らをネットワークして、医療費の効率化を図るマネージドケアが普及しています。そこでは利用者は、医療へのアクセスをネットワーク内の医師に限定され、受けられる医療サービスもネットワーク内の基準に従うことを求められます。

7――さいごに

各国の文化や慣習、他の制度がある為、医療制度を比較するのは簡単ではありません。
ただ日本の医療制度は、利用者である国民の目線に立てば、国民皆保険、フリーアクセス、高額療養費制度など、すばらしい仕組みがあります。

少子高齢化が社会問題として存在していますが、比較的病気になりやすい高齢者増え医療費がかさむため、現状のままでは制度を維持していくことが難しいことははっきりしています。それぞれのバランスをとりながら、海外の事例も参考に、全ての国民が納得できる最適な対応策を見つけることが必要です。

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