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『ユニコーン・ウォーズ』を見てめちゃくちゃ落ち込んだ

スペインのアニメ監督アルベルト・バスケス氏による『ユニコーン・ウォーズ』を見た。かわいい見た目のアニメーションでグロテスクな表現をする、オモシロ悪趣味系アニメかと思いきや、ずしーんとくらってしまう映画だった。

テディベアの軍隊が、ユニコーンとの戦争で行方不明になった部隊を探して、美しくもあやしい聖なる森へ踏み込んでいく、という話だ。主人公は同じ隊に所属する双子のテディベア、アスリンとゴルディ。

※以下、ちょっとネタバレを含むかもですので、お気をつけください。

語るべき要素はむちゃくちゃ多い。主人公の双子の関係はそっくり「カインとアベル」を踏襲しているように見えるし、軍隊に神父がついてきて神の教えを説くというのも印象的だ。そもそもテディベアたちが戦争に向かうのは、「かつてテディベアたちは森で暮らしていたが、ユニコーンとの争いに負け追い出された」「最後のユニコーンの血を飲む者は、美しく永遠の存在になる」という聖書の言葉を信じているからだ。つまり、宗教と戦争がべったり表裏一体となっており、熊たちにとって、この戦争は「聖戦」なのである。

戦争映画オマージュもたくさんある。監督は意識した作品として、『地獄の黙示録』『プラトーン』『バンビ』などのタイトルを挙げているが、他にもわかりやすいところで、『フルメタルジャケット』や『もののけ姫』などもネタ元として挙げられるだろう。

そして、戦争映画であると同時に、よりミニマムな家族、兄弟の話でもある。美しいアスリンと、醜い兄ゴルディの双子。母はよそに男をつくり、自分たちは捨てられたと思っているアスリンと、母から「アスリンをよろしくね」と頼まれたゴルディ。一目置かれる優れた存在でないといつか捨てられると思っているアスリンは、ゴルディの醜さを嘲笑う。ゴルディだって、自分の醜さや弱さには嫌気がさしているし、優秀な弟へのコンプレックスを抱えている。でもゴルディには生来の優しさがあり、アスリンは母から愛されるゴルディのそれが憎い。

「母から捨てられた」「母は自分より兄の方がかわいいんだ」「捨てられないように優れた存在でいなければ」と思うアスリンは、まさしく愛着障害を抱えたキャラクターなのだが、そうした彼の性質が戦争の悲惨と結びついたときに、とんでもない悲劇につながっていく。

見た目はキュートでポップで、残酷描写はグロテスクだが、「見ていられない」というほどでもない。人間の体から内臓が飛び出てくるよりはずっと見ていられる。かわいい絵柄で、戦争の悲惨さをこれでもかと見せつけられると、やっぱり、こんなことには何の意味ない、今すぐそんなことはやめなさい、と叫びたくなる。だから、ただ戦争の悲惨さを表現するだけで、映画は自然と「反戦映画」になるのだろう。

なかでもとりわけ暗い気持ちになったのは、ルッキズム的な描写だ。テディベアたちは、軍事訓練の合間でも、自分がいかに愛らしい見た目かを競い合う。アスリンはかわいいテディベアだが、目の下のシワを気にしており、こっそり化粧をしている。かわいさは彼らにとって価値なのだ。だから、肥満でかわいくないゴルディは自分に自信がない。かわいくて当然のテディベアが、自分の可愛さが擦り切れないように化粧をする、こんなグロテスクあるかよ、と胸が詰まる思いがした。

こんなふうに、『ユニコーン・ウォーズ』は見ていて落ち込むし、正直「つらい〜〜はやく終わってくれ〜〜〜」とも思ってしまったのが、見終わっても、なんだかこの映画のことばかり考えてしまう。終わり方の異常なキレの良さも素晴らしかった。アルベルト・バスケス、要チェックやで!

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