見出し画像

HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE のプリーツパンツ【着る】

 私はイッセイミヤケというブランドについて、どれだけのことを知っているだろう。
 分かりやすいものはそのビジュアル。初めて見たときのインパクトは大きい。大胆なパターンに特殊な加工。パズルのように折りたたんだり開いたりできるものまである。──これは服なのか? 何か工業デザインを見ているような。あるいは服についての実験。もしくは芸術?
 そして、ブランドを表すキーワードとしては、第二の皮膚、一枚の布、そしてプリーツ加工。それらは多くのところで語られてきた。多くの書籍で。多くの展示で。メディアで。だからこれらのキーワードが重要なものであることは知っている。あくまで知識として。

 日本の、いや世界のファッション史について調べれば、必ずこのイッセイの名前は出てくる。

 でも私は本当にこの偉大なブランドについて何かを知っているのだろうか? 実際にそれを着ないことには何かを分かったことにはならないのではないか? 言葉だけ知ったところで服を着たことにはならない。

 よろしい。ものは試し。イッセイの服を身に纏おうじゃないか。

 こうして私は初めてイッセイの服を身に纏うことになる。

 そして、これは身に纏うことで初めて分かったことなのだが、イッセイの服はプロダクトであって、人に着られることで初めて意味を持つ。

定番のプリーツパンツ、BASICS。ストレートシルエット。

 HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE のプリーツパンツ(BASICS)。ストレートシルエット。(もしかしたらこっちよりも「消しプリーツ」と呼ばれるテーパードというかバルーンシルエットのようなタイプの方が有名かもしれない。)カラーは定番の黒。定番以外にも毎月新色が出たりしているようだが、まあ初めてだし、定番の黒。

 元々がゆとりのあるパターン、かつ全面にプリーツ加工が施されているので、着心地はとても軽い。脚のシルエットを拾わずストンと落ちる。そして、歩くと揺れる。私はこの揺れる感じが好きで、歩いている時なんかはつい足元をチラチラ見てしまうほどだ(前方注意!)。空気を孕むその感じは、まさに「身に纏う」という言葉がピッタリくる。

 このパンツに合わせるなら、まずは白シャツを着たい。ボトムスが特徴的なので、トップスにはシンプルなものを持っていきたい。丈はやや長めの、お尻が隠れるくらいの長さがいい。パンツの見える面積を少なくすることで、プリーツのインパクトを抑える。(特徴的なアイテムは、あえて控えめに見せるのがイケてると思うのは私だけですか?)
 逆にパンツを主役に、白Tをタックインしても楽しい。ベルトループが付いたタイプを選んだので、ベルトでキュッと締めてもいい。もちろん、アイテムの軽やかさを殺さないようにベルトレスもありだ。色んな楽しみ方ができる。

丸みのあるプリーツ。
歩くと裾が揺れる。

 HOMMEと言うからには一応メンズラインなのだが、脚のラインを拾わないシルエットと、プリーツ加工という紳士服にはあまり用いない要素によって、むしろユニセックスな印象を受ける。
 話は脱線するが、いわゆる「男らしさ」を顕示する衣服というのはこの現代であっても、体、特に下半身にピッタリするシルエットの服なのではないかと思う。大昔の男性服はその脚線美を誇示することに心血を注いできた(ヘンリー8世やルイ14世の肖像画を参照されたし)が、その「脚線美=男性性」の公式は今でも続いているのではないか。
 巷の男性のスーツ姿を見よ。(全盛期に比べれば幾分マシになったとは言え)皆だいぶスリムなスラックスを履いてはいないか。時には「パツパツ」と言いたくなるような……
 でも歴史的に見れば「ソフトスーツ」が流行った時期もあるし、もっと遡って1940年代のスーツはだいぶゆったりめだ。まあモードの周期の話だろうが、『「男らしさ」が求められる時代の潮流と、紳士服(スーツ)のシルエットの関係』とか調べたら面白いかもしれない。この仮説では、「男らしさ」が求められる時代にはスーツは細くなり、逆の時代ではゆったりになる、というもの。まあ関係ないのかもしれないが、すくなくともモードと社会は密接に関わっているはずだ。

 脱線が長くなってしまった。とにかくプリーツパンツはことさらに男性性を提示する服ではなく、むしろユニセックスな印象があるので、女性でも似合うと思う(サイズはちょっと大きいかも)。
 というか、「男性か女性か」という話ももはや陳腐で、そんな考えを吹っ飛ばし「誰もが着られる」服と言ってもいいかもしれない。男性はこれを着て、女性はあれを着る? そんな考え、いらないんじゃないか? 大昔(それはそれは本当に大昔)は男女同じような服を着ていたのではないか? 
 また話が逸れてしまったが、つまり、このパンツは誰もが着ることができる。

 はじめ私は「芸術?」と言ったが、イッセイの服は芸術作品ではなく、デザインだ。プロダクトだ。それは人によって使用されることで意味を持つ。もちろん見ても美しいが、着用時が最も楽しい。

 私が思う、このアイテムで最も重要なこと。それはイージーケアであること。自宅で洗濯可能だし、シワにもならない(もともとプリーツという大きなシワが入っているわけだし)。だからどんどん着たくなる。着れば着るほど好きになる。春めいてきた。早くまたこのパンツを履きたい。

 最後に、保管はウエスト部分で吊るしておくことをオススメする。良いデザインのプロダクトを大事に長く使う。それが大切。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?