桃は幸せの味がする

「桃は幸せの味がする」と母が呟いた。
親戚に果樹園を営んでいる人がいて、季節によって桃、柿、キウイフルーツなどが届く。桃は必ず毎年この時期に届く。

「今年最後の桃だから。」

お中元用の収穫をやっと終え一息ついたころに送ってくれるのだ。毎年決まったルーティーンになっている。
かつてはペリカン便が運んでくれていたが今はゆうパックで届いている。箱を開けると甘い香りがする。まだ堅い桃を探して送ってくれているので少し青っぽい香りもする。

よさそうなのを選んで桃をお隣さんにおすそ分けして、ぶつかったり痛んだりしてそうなものから冷蔵庫にしまう。桃の繊細さには溜息が出てしまう。
一つ一つに緩衝材のネットが巻かれ、上下にも2重に守られている。

箱入り娘といってもいいのかもしれない。

平成最後の箱入り娘たちが今年も実家に届いたらしい。

箱入り娘たちを冷蔵庫で冷やして皮をむく。白桃ならではの軟らかい白さ、少しでも置いてしまうとすぐ茶色く変色し味が落ちてきてしまう。
なんと贅沢な食べ物なんだろう。
壊れやすさ、儚さ・・・

だからかもしれない。

桃は幸せの味がする

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