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死にません、生きている証です

◇ ウサギを描く理由 


どうしてウサギの絵を描くの?

たびたび、尋ねられます。
ウサギをモチーフにして9年目。
ウサギ作品のデビューは、代役で出品したアメリカはニューメキシコ州サンタフェの国際アートフェアでした。

描いても描いても売れなかった絵描き。
その絵描きのウサギの絵が会場の事前審査で話題になり、フェアのチケットやシャトルバスにもプリントされ、開場前のプレ公開時にアメリカの著名なコレクターに購入されました。
1日にして世界が変わったあの日のことは、今も鮮明に覚えています。

そんな華やかなデビューとは裏腹に、作品が生まれたきっかけは、東京。
深夜の救急病院でした。

※ 技術的な内容について
NFTでは表現の差別化のため、ウサギの表面をスクリーントーンで表していますが、油絵では作品制作の大半の時間と手間をかけ、点一つ一つを絵具と細筆で描いています。

月と太陽と黒ドレスのウサギ
キャンバスに油彩 116.7×91cm アートサンタフェ2013

◇ 夏の東京、深夜の救急病棟にて 


(2013年、夏の日記より)

次男が原因不明のウィルスで倒れました。
日中は良いのですが、毎夜40度の発熱を繰り返し、もう6日目。
当時7歳。

色々な病院で点滴を打ち続け、全身をザクロの実のように発疹が覆っていました。
口の中は口内炎だらけで水を飲むにも悲鳴を上げていました。
もともとやせ形だったのですが、さらに体全体から肉をそぎ落とされた、別のいきもののようなシルエットになっていました。

皮膚すべてが発疹で覆われうめき声をあげている彼の横で、日々衰弱していく姿を見ながらどうすることもできず、涙をこらえながら手を握り続ける僕。

医者に思わず尋ねました。

「この発疹はなくなるのですか?
この子の熱はいつか下がるのですか?
このまま死んでしまうのですか?」

タイトルの言葉はその時の答えでした。

「死にません、生きている証です」

醜く体を覆い尽くしていた発疹は実は彼の命が死を抗う姿そのものでした。
その瞬間、彼のその姿が生命の象徴そのもののような神々しいナニカに見えました。

僕の体の力が抜けた翌日から病気は快方に向かい、しばらくしたらうそのように元気になりました。

◇ 生命力のシンボルとつきまとう死の意識 


ニューヨーク留学中に911テロを体験して以来、必ずや「死」が制作テーマの裏側に張り付いていたのですが、死を意識していることこそが生きていることそのものであると思えることができました。

ウサギたちを描くときの点一つ一つは命の象徴としての点であり、物質としての点そのものでもあります。

わが子の身体を覆い尽くした発疹一つ一つであり、
絵を描いた一筆一筆の筆あとであり、
NYで911テロの目の前で煙を上げているWTCにカメラを構えながら必死で向かっていった一歩一歩の足跡であり、
キャンバスの水平面に叩きつけられた絵具一つ一つの塊であり、
大切な人の死に向き合うために殴り続けた壁の拳一振り一振りであります。

死という人類のみならずすべての生命が持つ壮大なテーマを背負いつつ、美術史と自分史の間で今、立ち尽くしている様を生命力のシンボルとされるウサギの姿を借りて描いています。

2001年、ニューヨーク。当時、日記の代わりに毎日自画像を描いていた。


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