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中津さんぽと打率のはなし。

週末は、なんとなく心の中にわだかまっている不義理を解消しようと思い立った。場所は中津。大阪でいちばん乗降者数が多い駅「梅田」の隣の駅なんだけど、びっくりするほど利用者が少ない。たぶん原因はこのホームの狭さにあるのでは?黄色い線の内側を歩くのが難しい。ベビーカーとかあったら、詰むと思う。

阪急中津駅のホーム

駅から数分歩くと、中津商店街がある。商店街としてはかなり細い通りで、知らなければ素通りしてしまいそうになる。骨組みだけ残ったアーケードと、連なるシャッターが醸し出す薄暗い雰囲気が、足を踏み入れるのを躊躇させる。けど、この日のお目当てのお店は、この商店街からさらに路地裏に入った場所にある。
ちなみにこの商店街、確かに数年前までは死に体だったのだと思うのだけど、入っていくと、個性豊かなお店がポツポツ開いていて、面白い。商店街の周りも美味しそうなお店が多くて、その割にはひとがいないのが好ましい。

中津商店街

路地を抜けてやってきたのは「人空間」さん。このお店のオーナーであるなみさんに、ライティング・ライフ・プロジェクトのカードのデザイナーさんを紹介してもらったのだ。
いま検索してみたら、お店紹介のYouTubeがあったので、貼ってみる。

ランチに野菜たっぷりのヴィーガン定食をいただいた。
わたしはガッツリ肉食派だけど、こういうご飯を食べると、カラダがめっちゃ喜んでるのがわかる。重くならないし、いろんな野菜の味を感じられるのもいい。
デザイナーさん紹介のお礼を言って、カードを少し置かせてもらう。

ヴィーガン定食とレモネード

お店を出て、ブラブラしていたら、木造アパートを改装したらしい面白そうな匂いのする建物が。
おそるおそる中に入ると、昔のアパートらしく、部屋がたくさんある。だいたいの扉は閉まっていたのだけれど、扉を開け放した部屋があったので覗いてみたら、ちいさなちいさな図書館のようなお部屋だった、いくつかの椅子と、絵本や児童書、古めの本から、新しめの本まである。手に取った万城目学さんのエッセイを読んでいると、お茶まで出してくれた。クーラーも効いていて、わたしにとっては天国のような場所だった。なんと、本は期限なしで貸し出してくれるとのこと。エッセイをどうしても最後まで読みたかったので、貸してもらうことにした。紙切れに、わたしの名前と本の名前だけを書いて渡す。連絡先も書いていない。もちろん一銭も払っていない。なのに帰り際には、駄菓子までくれた。
帰って調べてみると「関係案内所なかつもり」という場所らしい。


なかつもりの入り口。風情が感じられる。

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「何でも聞いてください」
 上原氏が笑顔で誘ってくれたので、それならば、と以前から疑問に思っていた、
「なぜ、人間はどうしたって打率四割でシーズンを終えることができないのか。ピッチャーの目線から、その四割をこえない不思議をどう考えますか?」
 という質問をぶつけてみた。
 はーん、と小首をかしげたのち、
「それは―、日をまたいで、切り替えられてしまうから、じゃないでしょうか」
 と上原氏は明快な口調で答えた。

万感のおもい「上原浩治、四割の壁を語る」:万城目学

この日、中津のこじんまりとした私設図書館で、わたしの心をとらえたのは、この一説だ。
ここまで読んで、わたしは、この問いを持った著者と同様、打率と切り替えの話がどうリンクするのか、考えこんでしまった。

「打率四割ということは、一試合に3打席なら2安打、4打席なら2安打、5打席なら2安打―、これを毎日維持し続けないとダメということですよね」
 と上原氏がよどみなく数字を挙げて語る。
「そうなりますね」
「たとえばですけど、ものすごく調子がいい日があって、その日一気に10打席とか立てるなら、固め打ちで打率八割とか、あり得ると思うんですよ。でも、実際は4打席くらいでその日のゲームは終わり、次の日がくる。区切られてしまうんです。日をまたぐと人間の調子はすこしずつ変わりますから、打てない日も出てくる。続けられないわけです」
「三打数1安打なら、続けることができるということですか?」
「続けられます。それだって、三割三分三厘だから、年間二、三人しか達成できない、すごい数字ですけど」

万感のおもい「上原浩治、四割の壁を語る」:万城目学

日々鍛錬を怠らないプロの選手でも、自分の「調子」が変わっていくという自然の波には逆らえないということなのだ。

わたしたちはプロ野球選手のように、プレッシャーがかかる「打席」に立つことはないけれど、日々、自分なりの「打席」のようなものが、いくつかあるような気がする。それは会議で意見を言うことかもしれないし、夜ごはんを作ることかもしれない。一日にいくつか、2つか3つぐらい、自分で意識する「打席」で、思ったような結果が出れば、寝る前に布団の中で「きょうは調子よかった」と思うのだろう。

ライティング・ライフ・プロジェクトで毎朝モーニング・ページを書く、というタスクは、新たな「打席」を設定することでもある。その日のスケジュールに影響がない時間に、決められた量だけ書き終えれば、「1安打」だ。
モーニング・ページを書くだけで、毎日ヒットを一本打てるって、メンタルに強烈なインパクトがあるのではないか。そう感じた。

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第4期、ライティング・ライフ・プロジェクトは満席につき募集を終了しました。ありがとうございます。


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