見出し画像

#3 分子整合栄養医学と医学の違いとは? それぞれの役割と違いについて解説

分子栄養学的アプローチと、医学的なアプローチの具体的な違い

では、分子栄養学的なアプローチとは具体的にどのようなものなのでしょうか?

分子栄養学では、前述したように前駆体の栄養素をサプリメント(分子栄養学実践専用サプリメント)を用いて補給を行います。この時、単に足りない栄養素を補給するだけで無く、個人差に応じた最適な摂取量の考慮や、補給した栄養素がきちんと消化・吸収されているか、補給した栄養素が体内できちんと活性化されて利用されているかを考慮して行われているのが分子栄養学です。

どういう事かというと、私達が食べた食べ物は、胃で消化され、腸から吸収されていますよね。そして、腸から吸収された栄養素は肝臓で代謝され、その後は血液にのって全身の細胞へと運ばれ、必要に応じて利用されています。

そして、栄養素というものは単体で機能することは殆どありません。他のビタミンやミネラル、タンパク質などの助けを受けたり、協力したりして働きながら、利用されています。この一連の流れがきちんと行われるために、その人の状態に合わせた至適量の栄養補給を行っていくのが分子栄養学的アプローチです。

例えば、先ほど解説した「ビタミンA」の場合、ビタミンA(レチノール)を全身に運ぶためには、「レチノール結合タンパク質」というタンパク質が欠かせません。もしタンパク質が不足してしまっている場合は、ビタミンA(レチノール)が血液に乗せて運べなくなってしまい、ビタミンA不足につながってしまいます。

また、ビタミンAを活性化して利用するためには、肝臓で作られる酵素の働きが必要です。具体的には、レチノールからレチナールへの変換にレチノールデヒドロゲナーゼ(レチノール脱水素酵素)、レチナールからレチノイン酸への変換にはアルデヒドデヒドロゲナーゼ(アルデヒド脱水素酵素)やレチナールデヒドロゲナーゼ(レチナール脱水素酵素)という酵素が関与しています。

これら酵素は肝臓で作られていることから、肝臓が元気である事が重要です。特に「アルデヒドデヒドロゲナーゼ」は、アルコールの解毒にも関与している酵素ですので、お酒を飲みすぎていた場合はこれら酵素を消耗し、ビタミンAの活性化にも影響を与えてしまいます。

加えてこれら酵素を活性化して利用するためにはビタミンB群の働きも必要です。先ほどのレチノールからレチナールへの変換に必要なレチナールデヒドロゲナーゼの活性化にはビタミンB1やB2、ビタミンB3(ナイアシン)やビタミンB6が必要ですし、レチナールからレチノイン酸への変換に必要なアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性化にはビタミンB3が必要です。

さらに、これらビタミンB群は肝臓で活性化されて初めて機能を発揮します。この肝機能が低下していた場合、ビタミンB群の活性化が抑制され、ビタミンAの代謝も悪化してしまいます。

肝臓はビタミンAを貯蔵したり、必要に応じて放出したり活性化したりしている臓器です。肝臓疾患や慢性肝炎などでは、ビタミンAの貯蔵量や代謝量が低下してしまう原因になってしまいます。

このように、1つの栄養素だけを見ても、様々な栄養や臓器の働きが関係している事が分かります。これら臓器での栄養素の代謝や、栄養素が身体の中でどのように運ばれたり使われたりしているかを理解し、その人にとって至適量となる栄養素を補給していくのが分子栄養学です。

先ほどのビタミンAで言えば、その人の体内でビタミンAが不足してしまった原因は、もしかするとタンパク質不足が関係しているかも知れません。このタンパク質が不足してしまった原因は、もしかするとピロリ菌に感染していて消化能力が低下しているのかも知れませんし、機能性ディスペプシアやSIBOなど、栄養を吸収する働きをしている腸に何かしら問題があることも考えられます。

また、ビタミンB群の不足や、肝機能の低下も影響しているかも知れません。それとも、単にビタミンAの摂取不足であるとも考えられますし、ビタミンAの吸収に不可欠な胆汁の分泌に問題があることも考えられます。

このように、栄養素1つとっても、体内でうまく働けずに不足してしまう原因は様々です。とはいえ、このような憶測をもとに勝手にその人の状態を決めつけることは出来ませんよね。そこで、分子栄養学では60項目以上に及ぶ血液検査(尿検査と唾液検査を含む)を実施し、その人の栄養状態や生活習慣などを把握する検査を行っています。

この検査では、肝臓で作られている酵素の量や、血清タンパク量、血球量などを調べることにより、体内でタンパク質やビタミン、ミネラル等が十分に足りているか、上手く代謝出来ているかどうかを調べています。また、血糖値や脂質代謝関連などを見る事によって、血液の状態や摂取エネルギーが足りているかどうかも判断しています。これらは単一の項目で見るのでは無く、複数を組み合わせて総合的に見る事が重要です。

加えて、胃病変を調べるためのピロリ菌抗体検査や、胃酸の分泌量などをしらべるペプシノゲン量の検査、肝臓の状態を調べる検査や糖尿病の検査、SIBO(小腸内細菌増殖症)やリーキーガット症候群(腸漏れ症候群)などの検査をオプションで追加する事によって、更に詳しく状態を把握できるようにもなっています。

もし、これら検査を行って問題が発覚した場合、必要に応じて画像検査や超音波検査などの目視で確定診断を行い、必要に応じて西洋医学的アプローチを取り入れていることも特徴です。

例えば、当方が推奨するオーソモレキュラー療法の場合では、血液検査を受けた方に詳細なレポートを発行しています。このレポートは、血液検査結果や栄養相談シートに基づいて専門医が一人一人を解析し、個別に作成しているものです。

メディカルレポートでは、血液検査結果についての総合評価や解説、前回からの変化などが記載され、現在の身体の状態が分かります。また、栄養レポートでは、血液検査結果の分析に基づく栄養アドバイスが解説されており、どの栄養素をどのくらい摂ったら良いのかが解説されています。

メディカルレポートでは、血液検査結果についての総合評価や解説、前回からの変化などが記載され、現在の身体の状態が分かります。また、栄養レポートでは、血液検査結果の分析に基づく栄養アドバイスが解説されており、どの栄養素をどのくらい摂ったら良いのかが解説されています。

このような、栄養状態の把握や病気の予測、予防を目的としたスクリーニングの血液検査を行い、ピロリ菌の除菌など必要に応じて西洋医学的な治療も取り入れつつ、その人がきちんと栄養を消化吸収、利用出来るように至適量の栄養補給を行っていただくのがオーソモレキュラー療法(分子栄養学)です。

つまり、オーソモレキュラー療法とは、科学的根拠に基づいた西洋医学的アプローチを取り入れつつ、「病気や不調が引き起こされる背景には必ず原因があるとし、体全体をみてその根本原因から改善させていきましょう」という東洋医学的な考えも併せ持った、完全個別アプローチを行っていくものと例えることが出来ますね。


より具体的な分子栄養学的アプローチの例

ここまでの説明でもまだ分かりにくいと思いますので、もう少し具体的な例で見てみましょう。先ほどのビタミンAでの場合、仮にAさんの検査結果が次のような状態だったとします。

Aさんの検査結果例

  • Hp抗体陽性

  • GOT、GPT高値

  • お酒多くを飲んでいる

  • 脂肪肝と診断されている

  • 総タンパク、アルブミン低値

このような場合、分子栄養学では、まずは必要に応じてピロリ菌の除菌を行い、胃腸機能と胃粘膜の修復を試みます。そして、お酒を飲んでいることから肝機能の低下とビタミンB群の不足、胃腸機能と肝機能の低下によるタンパク質不足を考慮し、次のような栄養補給を行って頂く事が考えられます。

Aさんの分子栄養学的アプローチの例

  • 消化酵素

  • プロテイン

  • ビタミンB群

  • ナイアシン

  • グルタチオン

  • ウコン

  • ビタミンA

  • ビタミンD

  • ビタミンC

  • 亜鉛

※それぞれの摂取量は個人差に応じて最適な量が異なります。

この栄養補給では、主にピロリ菌によってダメージを受けた胃粘膜の修復と、お酒によってダメージを受けた肝臓のケアが考慮されています。胃粘膜にダメージを受けていたら場合はタンパク質の消化能力が低下することから、消化酵素と合わせて消化の良いプロテインを選択することが必要です。併せて、肝機能のケアにビタミンB群やグルタチオン、ウコン、胃粘膜の修復にビタミンAやビタミンD、亜鉛などが必要です。

他にも、貧血があるかどうかや、腸内環境の状態によってもアプローチは変化します。分子栄養学では、単にビタミンAが不足しているからビタミンAを摂取すれば良いというのでは無く、ビタミンAをきちんと消化吸収、利用するために必要なその他の栄養素や臓器の状態も加味していることが特徴になります。

もう一つ、骨粗しょう症の例でも見てみましょう。分子栄養学の場合、骨粗しょう症のケアには、カルシウム・マグネシウムやビタミンD、ビタミンKなどのサプリメントを用いています。併せて、必要に応じて西洋医学的なアプローチも取り入れ、破骨細胞の働きを抑える「骨吸収抑制剤」なども取り入れることがあります。

一方、病院で行われている骨粗しょう症の治療においても、カルシウム製剤やビタミンD製剤、ビタミンK製剤、破骨細胞の働きを抑える「骨吸収抑制剤」などのお薬が処方されています。

この2つのアプローチは非常に似ていますが、一体どこが違うのでしょうか? 大きな違いとしては「マグネシウム」の摂取を重視し、身体が自然な形でカルシウムやマグネシウム、ビタミンDなどが使えているかどうかです。

現在の西洋医学的な骨粗しょう症の治療法では、基本的にマグネシウムは処方されずに「カルシウム製剤のみ」処方されています。これは、お薬で使われているマグネシウム製剤は骨粗しょう症の治療目的には当てはまらず、主に便秘の解消を目的とした下剤としてや、胃の不調に対する制酸剤として処方されているためです。

また、骨粗しょう症の治療で用いられるビスフォスフォネート薬とマグネシウムを同時に摂取すると、マグネシウムがビスホスホネート薬の吸収を低下させてしまうことが知られています。このため、マグネシウム製剤の同時処方は殆ど行われていません。

対して分子栄養学では、骨粗しょう症の治療においてもカルシウムと同時にマグネシウムの摂取も重視しています。これは、骨の形成にはカルシウム以外にもマグネシウムが必要な点と、ビタミンDの活性化にマグネシウムが必要なためです。分子栄養学では、必要な栄養素を前駆体で補給し、後の利用は身体に任せることで、より自然に体内で栄養が使える状態を目指しています。

そして、分子栄養学ではカルシウムの吸収やビタミンDの吸収、利用に至るまでを考慮するのが特徴です。例えば、カルシウムの吸収を促進したり、阻害したりしてしまう原因としては次のような影響があります。

カルシウムの吸収を促進するもの

  • 胃酸

  • アミノ酸やペプタイド

  • 乳糖

  • ビタミンD

  • マグネシウム

カルシウムの吸収を阻害してしまうもの

  • H2ブロッカー、ステロイドなどの服薬

  • 高リン酸の食事

  • 高食物繊維の食事

  • 高脂肪な食事

  • ストレス

カルシウムの吸収は胃酸の分泌量やアミノ酸(タンパク質)によっても影響を受けるので、分子栄養学ではピロリ菌感染の有無など胃腸機能もチェックします。

また、ビタミンDは脂溶性ビタミンのため、吸収するためには十分な胆汁の分泌量も必要です。この胆汁がしっかり分泌されているかどうかや、吸収したビタミンDを活性型に変換するために重要な役割を果たしている肝臓と腎臓の健康状態も重視します。

加えて、吸収を阻害してしまうような食生活やストレスなど生活習慣も見直すようアドバイスしたり、運動して筋肉をつけることも積極的にアドバイスを行っています。

これは、単に骨を作る材料であるカルシウムやマグネシウムなどを摂ったとしても、骨に刺激が無ければ骨の修復は行われないためです。併せて、骨を支えているのは筋肉であることから、筋肉量も重視します。このため、骨粗しょう症のアプローチにおいても、タンパク質の摂取量やビタミンB群の摂取量など、骨に関する栄養素以外のアプローチも同時に行います。

また、糖尿病など他の疾病によっても骨粗しょう症になることから、他の疾病や臓器の状態もトータルで見てアプローチしていきます。このように、骨粗しょう症のアプローチでも様々な面を考慮し、根本原因から解決していくようアプローチを行っていくのが分子栄養学です。

対して西洋医学的な骨粗しょう症の治療では、ビタミンD製剤として活性型のビタミンDが処方されるなど、体内での栄養素の働きを人為的にコントロールします。また、アプローチにおいても骨に特化したアプローチしか行われません。

つまり、西洋医学的な薬とは、多くの場合、症状に対して上から叩くものです。問題が引き起こされた部分のみの対処しか行われないので、その他の臓器の状態などは考慮されていません。

これに比べて分子栄養学では、個人個人の状態や臓器の機能等も把握し、個人差に応じた最適な摂取量の考慮や、補給した栄養素がきちんと消化・吸収されているか、補給した栄養素が体内できちんと活性化されて利用されているかを考慮して行われています。

単に薬をサプリメントに置き換えたり、対処療法的に足りない栄養素を補給したりしているわけではありません。このような、各臓器の働きと栄養素の働きを理解し、身体の機能を本来あるべき状態に整えていくのが分子栄養学であり、医学との大きな違いです。この2つは、どちらが良いとか優れているとかでは無く、お互いを上手く組み合わせて行っていく事が大切です。


間違った分子栄養学の情報に注意!

近年、インターネットやSNSが発展したことから、健康に関する様々な情報が飛び交っています。分子栄養学においても、分子栄養学を学べるセミナーや講座が増えた事によって、これらを学んだ人達による情報発信が急激に増えてきました。

このような中で問題となってくるのが、間違った分子栄養学の情報です。分子栄養学の情報の中には間違った情報や、分子栄養学をしっかり理解せずに情報発信されたもの、独自理論を組み合わせたものや、自身の経験のみで語られた客観性、エビデンスのない情報なども発信されています。酷いものでは、全く分子栄養学でも何でも無いのに分子栄養学だと語られているものもあります。

例えば、以下のような情報は間違った分子栄養学の例です。

  • メガドーズ、メガビタミン療法

  • 食事内容の改善や、特定の食材を摂取するだけで至適量の栄養が得られ、病気が改善するとしているもの

  • この不調にはこの栄養素」といったように、単に不調の症状だけを元に栄養アプローチを行うもの

  • 海外サプリメント、単に安価なサプリメントなど、安全性、有効性が確認されていないサプリメントで分子栄養学の実践をおこなっているもの

  • 前駆体では無く、活性型の栄養素を用いているもの

  • ファスティングと分子栄養学を組み合わせるなど、独自理論が組み合わされたもの

  • 薬は一切使わない、栄養療法だけで病気が治るなど極端なもの

  • 病態や不調の根本原因を調べるための検査に誘導しないなど、栄養欠損となった原因をきちんと調べずに行っているもの

  • 医師免許を持たない者が、血液検査データを扱う、サプリメントを処方する、食事指導を行うなど、医療機関を通さずに分子栄養学の指導を行っているカウンセラー など

このような情報は間違った分子栄養学であり、実践することで病態や体調が悪化するなどむしろ命に関わる危険性があります。事実、当方にもこれら誤った情報を元に実践した方からの健康被害に関するご相談も増えてきました。

現代では個人がSNSで気軽に情報発信が出来る世の中になっています。このような時代だからこそ、間違った分子栄養学の情報にはくれぐれもご注意ください。



※この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?