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脂質の摂取に関して誤解を導く話・・・比が出てきたら警戒しましょう

ここでは不飽和脂肪酸の話をしていますが、要は比に関する話で、体重/身長の二乗(いわゆるBody mass index・BMI)といった話にも通じます。

誤解を生んでしまう研究の例

仮の研究発表会で次のような抄録があったとします。妥当な研究・解釈といえるでしょうか? 

タイトル:低ω6・高ω3不飽和脂肪酸の摂取バランスが自己免疫疾患の予後をよくする傾向

序文:ω6およびω3不飽和脂肪酸は体内における炎症作用に関わり炎症作用を亢進、抑制するなどの効果があると考えらている。不飽和脂肪酸の摂取と自己免疫疾患Yの病態に関するヒト研究は少ない。

方法:そこで自己免疫疾患Yを患う成人8730人を対象に食事調査を行い、ω6不飽和脂肪酸とω3不飽和脂肪酸の一日あたりの摂取量を算出、その比が(ω6/ω3)と5年間のYにより入院するリスクと関係があるかロジスティック回帰分析で検討した。

結果:その比の平均12.0、標準偏差3.4であった。有病するリスクは26.5%であった。回帰分析によると標準偏差3.4あたりのオッズ比は1.06 (95% 信頼区間:1.02~1.11)であり、比とYの予後との正の相関が確認された。

結論: ω3の摂取が高くω6の摂取が低い食ほど、疾患Yの二次予防に有利であることが示唆された。

#### 仮の抄録おしまい

結論からいうと非常に怪しく、このケースですと誤りです(そういったシナリオにしてあります)。その誤りについてここに記したいと思います。

何がおかしいの?

まずω3とω6、そしてその比の統計は次のようになります。
平均±標準偏差
ω3  : 0.60±0.10 g/day
ω6  :7.00±1.50 g/day
ω6/ω3 :12.0±3.4

そして不飽和脂肪酸の摂取と疾患Yで入院する確率(リスク)が次のような真実があるとします。

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簡易に解釈するとω3 PUFAの摂取と該当リスクとは有意な負の相関があるという感じですね。ω6 PUFAについてはその傾向は特に有意にには認められなかったといえます。

この2つの不飽和脂肪酸の変数の比をとってプロット、解析すると次のようになります。それが抄録に使われた結果です。

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これだけ見ると、ω6脂肪酸の摂取量が高くてω3脂肪酸の摂取量が低い人ほどリスクが有意に高い傾向がある・・と考えてしまいますよね。

しかし上に並べた2つの図から導いた図がこれなのです。この比に着目した図は、分母にあるω3脂肪酸とリスクとの関係の反対方向の傾向を示しているだけであって、ω6脂肪酸はそもそも関係ありません。ω6の摂取が高いのは良くないと考えてしまうのは誤りなわけです。

こうした比を用いて誤った(少なくとも検証が不十分な)推察をしてしまっている研究はたくさんあります。特に脂肪酸の話では酷いです。問題提起されている例として私がよく記憶しているのはナトリウム(Na)とカリウム(K)の比の話があります(註1)。

比を作って有意だどうだという議論と解釈は科学的な考察をする素養も疑われるので気をつけましょう!(比についてもちろん有用な場合も考えられますがここでは控えます。)

(強引な関連付けですが)自動車と新幹線とスピードを比較して新幹線の方が速いからといって、世の中の自動車の数を減らして新幹線を増やした方が良いという話にはなりません(下のTweet)。適材適所が適当であり、多機能な必須栄養素であるω6脂肪酸とω3脂肪酸も同じことが言えるな・・と思っている次第です。以上、参考になれば幸いです。

註1)Yang et al., JAMA Intern Med, 2011 とそれに対するCohen et al., のLetterが記憶に残っています。統計学や分析化学系の論文にも議論がよくされます。

画像はこちらから:
https://www.pinterest.com.mx/pin/427701295864353793/

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