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【読切連載】僕の親友は不法滞在 28 〜妊娠そして〜

 28 妊娠そして

Hから電話がかかってきた。10万円を貸してほしいと。いきなりだ。

 理由は一緒に住んでる彼女が妊娠したから中絶しなければならないと。

 最低だ。不法滞在を続け、貯金もできず、今度は妊娠して10万必要だと?

 しかし、責めてどうしようもなかった。現実に妊娠した事実があり、生むか、生まざるか、それが問題なのだ。

生むという選択肢には僕たちには選ぶことはできなかった。出産費、そして養育費、大きくなれば、教育費。それを不法滞在でこっそり生きている者ができない。それが1番無責任だ。

僕は彼といろいろ話したが結論はやはり一つしかなかった。

僕は10万円を送金してやった。

その後、マスコミはカルデロン一家問題を連日報道した。覚えてるだろうか? 

あの報道とあの一家とあの支援者には、申し訳ないが、僕は怒りしかなかった。

カルデロン一家はフィリピン人の両親が別々に偽造パスポートで来日して、不法滞在して、妊娠して生んで、結局、不法滞在がばれて逮捕された話。

マスコミと人権弁護士は娘ノリコさんをカメラの前に出し、世論誘導して「可哀想だ!一家を送還させるな!人でなし!」と騒いだ。さらに「ノリコさんは日本生まれで日本語しか分からないんだ。フィリピンなんて行きたくないんだ」とも報道。

国は超特別に、両親は不法入国、不法滞在までしていたので、送還するとして、娘ノリコさんは日本にいたいのなら、滞在を許可すると発表。

これにマスコミはまた世論煽動して「可哀想だ。一家に特別滞在を認めよ!」と連日連夜報道をした。

僕のマスコミへの怒りは、単純なものだ。「じゃあ何かい?不法滞在しても子供生めば、滞在オーケーになるんかい?そんなことしたら不法滞在者みんな生めばよくなるのか?いいのか?それともこの家族だけエコヒイキしたいのか?」

とにかくこの一家を特別視しすぎる。エコヒイキだ。マスコミは情緒的すぎる。社会的、法的に、マクロ的視点から見て平等性や安定性を主張していくべきだ。

僕はいろんなことを考えて考えて、彼と話して、泣きながら中絶費用を出したのだ。

中絶しなかったら不法滞在じゃなくなってたのか?

バカいっちゃいけない。



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