【連載】僕の親友は不法滞在10
10 地方のアパートへ
名鉄の駅を出るとHが待っていた。少し痩せてるか。ベトナム人特有の背が小さく丸顔で目と鼻が大きく少年のような笑顔は変わってない。
駅前からタクシーに乗るという。就職に失敗して職を転々とした自分にはタクシーなんかほとんど乗ったことがなかった。Hにしても金なんて持ってないのに、タクシーか。
田舎から東京に出てきた自分は忘れていた。地方は交通手段がないのだ。
ここ数年高齢者の運転が問題視されている。高齢者の運転による痛ましい事故が後を絶たないためマスコミが盛んに免許証を返納して運転を控えることだとか、周囲がもうしないように言うべきだと言っている。しかし、それは東京のマスコミの言い分だけだ。地方では、高齢化が進み高齢者だけの世帯が増え、なのに電車は廃線がむしろ増え、バスも増えない。地方ではほんとに自家用車が必要なんだと思い出した。そして我々には車がない。歩いて50分のHのアパートへ荷物を抱えて歩くのはちょっときつい。タクシーの移動は外国人労働者にとって結構痛い出費だ。
駅からほぼ直線で、田舎の道を進んだ。途中左手に大きなショッピングモールがあった。それを越してコンビニを曲がるとHのアパートがあった。
間取りは2K。左がH、右がお兄さんと言ってたMさん。(ベトナム人は年上は誰でもお兄さんという)
東京ではずっと4畳半ひと部屋で、二人とか三人とかでも暮らしてた自分にとってはとてもとても広かった。
入って一言目に「広いねえ」と言ったので、Hは笑ってた。彼のベトナムの実家は建材業をしていて豪邸だというのは後々知ることになる(笑)
家賃は1ヶ月10万円でMさんと折半するのだという。
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