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見ているようで、何も見えていないのかもしれない。

日々、ものすごい量の情報が流れています。

スマホの通知が鳴ればすぐ確認し、刻々と変わるタイムラインに目を通し、秒でいいねを押し、動画は倍速で見る。

一瞬で把握し、処理し、忘れるような方法。
いつの間にかそれが当たり前になっていました。でもそれって、ひとつの処理回路を強化してるだけと言えるかもしれません。

自分は世界を「見ているつもり」で過ごしていたかも、と気づいた話をさせてください。

対話型鑑賞との出会い

先日、ひょんなことから「対話型鑑賞」というワークにお邪魔しました。とてもおもしろく、「見ているようで、何も見えていない」と豊かな気づきのある時間でした。

対話型鑑賞とは、アート作品をめぐって、気づいたこと、考えたこと、浮かんだ疑問などを言葉にし、対話する鑑賞方法です。
90分間で一つのアート作品をめぐって、観察したり、内省したり、背景を分析したりしながら作品の解釈を楽しみ味わうことが、この場の目的です。(太字わたし)

美術館はそれほど行かないし、アートと触れ合った経験も在学中のかすかな記憶しかありません。しかし造詣の深さは関係なく参加できるとのことだったので、参加させてもらいました。(臼井さん、ありがとうございます!)

オンラインで10名ほどが集まり、ある作品を1時間ほどかけて鑑賞しました。

小グループで話したり全体シェアをしたりしながら、ひたすら「何が見えるか」「どう思うか」「なぜそう思うのか」を述べ合います。わたしは「この黒い線が…猫耳に…見えます…」「黄色いので、元気な感じがします?」とかそんな感想からのスタートでした。

自分の「見えてなさ」に気がつく

同じ作品をずっと見ていると、次第にいろんなことに気が付き始めます。絵は何も変わっていないのに、それまで気がつかなかった部分が気になってくるのです。

この「どんどん見えてくる」現象は、他者の視点が加わることでさらにパワーアップしました。他者の視点はわたしの「見えている」ものをガクガク揺さぶってきました。

「奥の赤が、戦争で燃えている様子に見える」
「タイトルがConcertだから、手前のカラフルなところは観客じゃないか」
「手前は演者で、奥の黒いところが観客なんじゃない?」
「奥の黒い線、ピアノに見える」
「わたしは銃器に見えます」

1時間の中で、何回も捉え方のどんでん返しが起こりました。最初は観客の盛況な様子だと思っていたものが、演者のカーテンコールに見え、最後は戦争前の悲惨な死者の行進に見えてくる。。脳が大忙しでした。

ああ、見ているようで、見えてないものばかりだ

素直に、清々しく、自分の見えているもの、受け取っているものの狭さに気がつきました。きっと日常もそうです。わたしはほんの少ししか見えていないし、見ようとしていないのだと思います。

「正解を出さない」時間を過ごす

対話型鑑賞に参加している間、一番ぐっと我慢していたのは「カンディンスキー Concert」とWikipediaを検索することでした。

この時間の目的は「一つのアート作品をめぐって、観察したり、内省したり、背景を分析したりしながら作品の解釈を楽しみ味わうこと」。

正解や合意形成、結論を出す時間ではありません。それなのに、どうしても正しい一つの答えを出そうとしたり、参加者の合意形成をしようとする思考が働きました。

これは、「速く」「精度高く」「結論を出す」問題解決型の志向性がかなり優勢に働いていたのだと思います。

「見える」に正解はありません。対話型鑑賞は自分や他者が「どう見えたか」の解釈をひたすら味わうため、曖昧さの中で耐える力が求められると思いました。「ネガティブ・ケイパビリティ」と称されるものに近い気がします。

ネガティブ・ケイパビリティ
事実や理由を性急に求めず、不確実さ、不思議さ、懐疑の中にいられる志向性。時間のかかる創造的な業務に向いている。

他者の視点を「そうかもしれない」と受け入れる力、自分の視点を「そうでないかもしれない」と曖昧なまま抱える力。

正解や結論を目的としない対話的な関わり合いはとても根気のいる作業で、とても一朝一夕では会得できない感覚がしました。

「見てるようで、見えていないかもしれない」と思いながら人やものに関わることは、速さはないけれど豊かな気づきを生んでくれます。

曖昧さの中にいる力は、コミュニケーションの場や不確実性の高い社会でますます必要になるものだと思います。

今回お世話になったミミクリデザインの臼井さんが、現在オンラインで毎月開催しているそうなので、興味を持たれた方はぜひチェックしてみてください。(次回は8/29(土)開催予定らしいです!)

体験したらきっと、わたしとはまた違った豊かな気づきがあると思います。どんな世界を体感したか、その際はぜひ教えていただけると嬉しいです。

当日のワーク詳細はこちら

ここまで読んでいただきありがとうございます! いただいたサポートで、自分へご褒美あげたいなと思います。