いちごみるくな男


「女の子のデブは悲惨だからなあ」


そんな彼は田舎でバーを経営している。背は180センチ、長髪で髭を生やしていて切れ長の目。おなかに響くベースみたいな低くて良い声。

わたしが行くといちごみるくを作ってくれる。シェイカーをつかって、アルコールはなし、大人みたいに、カクテルグラスにいれて。わたしはそのいちごみるくが大好きでたまらなかった。甘くないいちごみるく。


彼は、わたしが物心つくかつかないかくらいで家を出ていたので、週に1回わたしと妹を夕食に連れて行ってくれるだけだった。おすしとか、焼き肉とか。そういうものだとわたしたちがいっぱい食べるからだって言って。

わたしが大人になってからは一緒にお酒を飲んだりもしたけれど、再婚相手にわたしをママが住む家に送らせたり、離婚してもなお、ママのことはまだ好きだよ、とか娘に言ってしまうダメ男なのだ。

彼は独自の恋愛観や価値観をわたしに押しつけ、繊細なわたしは傷ついたり腹が立ったりするけど、押しつけるつもりはなく、父親ってのはそういうものだと思う。わたしも彼をこころの底からは嫌えない。実の父親だから。


遊ぶには楽しいけど家庭には向かないダメ男。彼のダメなところは、優しすぎることと本心はぜったい愛する女にいわないこと、いつまでも世の中に夢をみていること。親だって、ひとりの人間だということに気が付き、父親はダメ男だと分析したら、ダメ男を憎めない自分の性質にも納得がいく。

よく女の子は父親に似たひとを好きになるっていうけれど、それは本当にそうだと思う。わたしは、物心ついてから父親とは暮らしてなかったし、よく知らないので「父親に愛される」という感覚がよくわからない。それでもわたしは彼に愛されたかったし、愛したかったんだろうとおもう。

べつにいまだって会おうとしたら会えるけれど、やっぱり上手に愛情表現できないのは慣れていないからなんだろうな。わたしが爺専なのは父親との関係性が薄かったからなんだろうし、デブになったら男に愛されないと思うのも彼の言葉のせいなんだろう。

恨んでもないし、愛してもない、ただいるだけ。

でも両親ってのは、良くも悪くも呪縛なんだろうとおもう。つぎに会ったときは、もういちごみるくはいらないから強いお酒をつくってほしい。


おわり


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