タカヒロ1


「あなたってどうしてなんでもいいよ、って言うの?興味ないってこと?」


3か月前に、軽井沢で盛大に結婚式を挙げてみんなに祝福されていたときのあの笑顔とは別人みたいな顔で、彼女が言う。

またそれか、と思う。

正直俺はモテるタイプの見た目だし、空気も読めるから要領もよく上司にも気に入られる。簡単なんだ、人生なんて。そう思っている。

彼女のことはもちろん、興味がない。

育ちはそこそこ良いのかもしれないけど、そこそこだから成金みたいなモンだし見てくれは良いけど、人間として薄っぺらい。そんな女と結婚したのは、とりあえず1回でも結婚しておけば、周りにも何も言われないと思ったからだ。

男の30代は過酷だ。社会的にもそこそこになってきて、上司には期待されいろいろと任される。部下もちゃんと育ててやらなきゃ。説得力を持つためには家庭もちゃんとしているようにしなきゃいけない。マトモな人間に見せるって、異常な行為だ。みんな薄々わかってんのに、そこまでしてしがみつくなんて、ちっぽけだよな。

そんなことまで考えながら、目の前の新妻に笑顔を向けて「そんなことないよ」なんて言ってご機嫌取りのつまらないセックスをしてる俺もなかなかイカれていると思うけど。


師走の金曜日、社内の忘年会で調子に乗って飲みすぎた後輩をタクシーに乗せて送ったあと飲み足りなかった俺はふらふらと新宿を歩いていた。

ホテル街はいつもと変わらない。何歳になっても、変わらない。そういや、このホテルってよくセフレと来てたなあ、あいつ元気かな。とか考えながら歩いていると、少し先に立っているベンチコートを着た呼び込みの女と目が合った。

「お兄さん、ちょっと寄っていきません?」

そういった彼女はガールズバーの女にしちゃ年齢が行っているようにみえた。声もちょっとかすかすしている。彼女は彼女なんだけど、たぶん真ん中なんだろうなとすぐに分かった。

「いいよ、暇なの?」

そう言って俺は彼女と一緒にエレベーターに乗り込んだ。

その店は、新宿にしちゃ広くて上品な雰囲気の作りだった。無垢材のカウンターが8席と、ボックス席は2席。壁は白で、照明はオレンジ掛かっていた。

カウンターには地味な黒いスーツを着た男性客が座っていた。カウンターの中には、ハーフアップに髪を上げた、上品だけど、分かりやすいオネエが接客していた。

「ママ~、イケメン1名連れてきたよ」

ベンチコートの彼女がカウンターの中にいるその人にそう言う。

「あらやだ、ほんとイケメン!どうしたの?女に振られた?」

そう言って迎え入れられた。



つづく

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