見出し画像

プロ野球助っ人覚書 ~成績から見る野球的人格~

中島国章氏の『プロ野球 最強の助っ人論(現代新書)』を読んでいる。通訳、スカウトなどでヤクルトの助っ人外国人を支えてきた氏の書籍は日本とアメリカのギャップをどう埋めるかといった要素に時間をかけていった重みが文面からしっかりと伝わってきており読み応えのある内容である。

私も外国人助っ人の成績を調べており、現在はメジャーよりはマイナーの成績を中心に見ていたりする。というのも外国人助っ人は全員が全員メジャーでの成績を持つわけではなく、むしろマイナーの方が成績をしっかり出しており、その性格が強く出るためである。

そこに氏は「成功する選手」と「失敗する選手」の判断を分ける十八の判断基準というものを挙げている。多くが現地で見たりコミュニケーションを図らなければわからないところではあるが、それでも成績からわかることもある。
それを私論として書いてみたいと思う。

1,パワーが抜きんでいる選手が活躍するのか?

中島氏は「パワーのある選手」こそが助っ人外国人成功の一つとして捉えている。
特にメジャーの球速や球場の広さに勝てなかった「ウォーニング・トラック・フライ・ボール・バッター」を積極的にとっていったと記す。果たしてこれは本当にそうなのだろうか。

私は必ずしもそうだとは思わない。
というのもえてして日本は「助っ人外国人」に本塁打を求める傾向があり、助っ人として呼ばれた選手はそれを意識する傾向があるからだ。
例えばラルフ・ブライアントなどはそうである。
実際彼もまたマイナーでも三振の多い選手である。原則的に100三振はどのシーズンもするような打者ではある。
しかし彼もまたメジャーリーグに上がると変わってくる。
1985年にドジャースにデビュー後1986年は後半のセプテンバーコールアップ期にチーム帯同するのだが三振を減らそうとしている姿が見受けられる。
彼は9月に多くスタメンに表れているのだが、この時期の打率は.273と高くはないものの、我々が日本で考えるような低打率高ホームランの姿からは離れる。

RALPH BRYANT 1986 GAME BY GAME BATTING LOGS(Baseball almanac)

彼もメジャーでの生き残りを意識したのだろう。三振をしながらでもホームランを狙うよりホームランの魅力そこそこにしっかり打撃をアピールする作戦に切り替えている。
確かに1か月で16三振をしているからフルシーズンで出場したらと考えると100三振は免れないだろうがこの意識で使うとなるともう少し打率とホームラン量は違ったものになる。

実際これはマイナーでも同じような成績で彼の基本的な成績はホームランが魅力だが三振の多いフリースインガーであるものの日本のような「ホームランが打てればなんでもいい」というようなバッティングをしていないのである。

しかし日本に来ると.283の89年を最後に一気に打率が落ちる。
代わりに200に迫る三振数とホームラン量が増加するのだ。
この成績から読み取るにラルフ・ブライアントという選手は技術的に器用ではないが頭脳明晰で求められたことを遂行しようとする性質があることが読み取れる。
打撃の全体能力を求められるメジャーでは打率も意識しながら。
ホームランを狙うことを求められる日本、それもホームランが出るなら三振やむなしの近鉄であれば荒い打撃をさらに荒くしてホームランか三振か、という魅力的な打者へ変わっていった。
こういう「頭のよさ」がかなり日本での適正に影響している。

元ヤクルトヘンスリー・ミューレンスのようにマイナーでもメジャーでもところかまわず振り回して96試合出場しながら97三振、一試合におおよそ一三振するような選手もいたりするが。なんなのもう。

2,過剰にホームランを期待するNPB

そういう意味ではホームランを狙える力もないのにホームランを狙わせる日本の傾向というものが見受けられる。
例えば90年代オリックスに在籍したタイ・ゲイニーという選手がいた。彼のマイナー通算本塁打を知っているだろうか。
実は13シーズンいて89本しか打っていない。これが3Aに限定すると7シーズンいて48本だ。平均してシーズン7本以下。
そして意外なことだが若いころは盗塁が多く、マイナー通算で223という盗塁を決めている。しかし3Aとなるとホームランと同じ48だ。3Aのレベルでは盗塁が出来なかったか足を怪我したか。そこは分からない。
シーズンで100こそ超えないものの70~90の三振をするのでフリースインガー気味ではあるものの打てばなにかしかをするタイプの選手であることが分かる。

その彼が初めて20本塁打と100三振を記録するシーズンがオリックス時代なのだ。
そして翌年成績を落として契約解除。

こういう成績の選手は本当に多い。
同じくオリックスのDJことダグ・ジェニングスは来日前の3Aインディアナポリスまで20本以上の本塁打を打ったことがない。原則的に2割後半くらいの打撃で10本前後のホームランを打つような選手だ。
そんな彼が日本にやってきたらホームランを打てるかというとそうもならない。
なんならなまじっかインディアナポリス時代の成功体験を持ったまま来ているために105三振しながらも.296あった打率が.266まで下降している。三振は104だ。

そしてこういう無茶が祟り、自分のフォームを見失ったり腰などが限界を迎え帰国。マイナー復帰しても悲惨な結末を迎えている、という選手は少なくない。

これは日本の「助っ人外国人」という「ホームランを打てる選手」への過剰な信仰が絡むのではないか。
古い言葉を使うとするなら「アメリカの野球はホームランばかり狙って雑」と評されていた。メディアが発展した今でこそ必ずしもそうは言えないことが分かってきているが、それでも試合結果が査定と考えるメジャーリーガーの多くはチームプレーよりホームランを選ぶ。得点を取ることこそがチームプレーであり、それが給料になるからである。だから一見「雑なプレー」に見える。
それを逆転的に捉えたのが助っ人外国人の獲得に見える。
「外国人はホームランを狙うから日本だとアジャストするかもしれない」
という固定観念から本来ホームランよりは二塁打を狙わせた方がよい選手にホームランを狙わせるのだ。
勿論それが成立することもある。しかし大抵は一年だけ活躍して消えていく。ランディ・バースやブーマーといった選手や前述のラルフ・ブライアントのような選手は稀だ。

日本も肌の色の違いをいいことに結構無茶をさせているのだ。

3,なぜアメリカはデータを使いたがるのか

ちょうどフルタの方程式で前田健太(現DET)が登場したときのこれは非常に面白い。

どうしても試合数や選手との対戦回数の少ないアメリカではどうしてもデータを重視して組む傾向がある。最初の対戦4打席が最後の対戦になる可能性だってある世界がメジャーリーグであるのだ。
チャーリー・マニエルだったか記憶はあいまいだがなにかの書籍で日本在住経験選手がマイナーで監督している時からすでにパソコンを使ってデータを収集する傾向はあったからここ10年くらいで始めたものでもないだろう。対戦経験が少ないからこその戦い方になった結果がデータであり、マイナーの場合は選手をメジャーに昇格させていくことも任務の一つだから練習に役立てたり選手の試合観に役立てたりすることが分かる。

しかし日本は対戦機会が多い。6球団どうしの対戦が基本であるが故にそこそこ対戦する機会がある。最初こそデータが活きてくるが後々になればそれをさらに発展させた戦い方が主流になっていく。相手の癖であったり特徴であったり。
対戦経験数が多いからこその戦い方を求められる。
チームが少ないからこそ柔軟性が求められるのだ。日本野球のきめ細やかさはチーム同士の対戦が5球団(+6球団)という形であるからで、同じ選手同士の対戦経験が多いからこそ多くの工夫を求められるところにある。
それこそ過去ロッテのエースであった伊良部秀輝とオリックスのスターであったイチローが対戦のたびにフォームを変えて挑み、相手に付け入るスキを見せようとしないのに等しい。
そういう意味ではイチローがMLBで活躍できたのはその打力もさることながら相手がどういう事をしてくるか分からないながらも柔軟に対応してきた経験もその一端にあるだろう。

対戦機会が少ないからこそ「いつも通り」をやれる機会の多いMLBと対戦機会が多いからこそ「いつも通り」では戦えないNPB。
この違いが動画から見受けられる。

4,柔軟性ある野球的性格が助っ人外国人の結果を出す

そういう意味ではランディ・バースのような選手が活躍に期待がかかる選手成績の好例と言えるだろう。
若手時代のタコマの頃は打つけれど三振も多い選手であったが年齢を重ねるにつれ打率はそのままに三振を減らしていっている。途中から四球が増えており1980年の3Aデンバーでは三振67に対し四球97と高い選球眼を持っていることが示唆できる。
それは過去ストライクとボールの見分けが曖昧であったものが段々とはっきりとしてきていることを示しており、そこでも成長がうかがえる。
選手としてはどうしても同じくデンバー時代の打率.333、37本、143打点という数字が目に入ってしまうが、それ以上に「なぜこのような成績に至れたのか」という疑問を問うことの方が正しい。運がよかっただけでは数字は出ない。

打ったホームランはどういうものだったのか。際どいボールをどうさばいていたのか。2ストライクに追い込まれてからは何をしようとしているのか。表情は。
特にピンチに追い込まれた時などは選手元来の姿が浮き彫りになってくるからかなり深く読み取れる。
私もアマチュア野球が好きでドラフト候補などについつい目が行くがこういうところは同じく大切にする。どれだけ一級品の力を持っていてもピンチの時にあからさまな緊張感を表すような選手はどうしても一つ格が落ちる。逆に二級の力しかなくてもピンチにおいてどっしりと構えていたり、それどころかそれを利用して相手を食ってしまおうとするようなプレーをする選手は思いがけない順位で指名されていたり、結果として下位指名ながら一軍帯同されていたりするのは正直な印象だ。
これはなにも日本人外国人関係ない。人間が野球というものに対峙したときに表れる性格をきちんと読み取ることに意味があるのだ。

結果ランディ・バースは来日後、骨折しながらも本人の性格も相まって残留、見事85年に三冠王に輝くのだ。マイナーが住処だった彼が日本の球史に名を残すことになった。

ブーマーもそうだ。
来日前の3Aトレド時代に出した成績.336、28本、108打点に目が活きがちだがそれ以前のまだ10本前後しかホームランを打てていない時代に70点近くの打点をたたき出していた事実を見なければならない。
そしてなにより平均50くらいしかない三振数。四球も少ないためにとにかくバットにボールを当て、ここぞではきちんと点をとる。
これこそブーマーことグレッグ・ウェルズの野球的な性格なのだ。

こういうところを読み取らなければならない。
目の前の数字だけが全てではないのだ。
数字を目の前にしてどういう野球的人格を備えているのか、を見なければならない。
中島氏はこれを「ハングリー精神」と書いているが、それに「野球選手としての成長力」をプラスしたい。過去のデータから何が改善され、何が課題なのかをしっかり吟味し、試合にどれだけ生かせるのか、ということを成績は教えてくれるのだ。
成績からは選手の全ては見られないが成長の糧になるものは多く出せる。それをいかに消化しきれているかが助っ人外国人成功のカギなのだ。

それどころか日本でのプレーを糧にアメリカで活躍する選手だっている。
セシル・フィルダーは100三振したのは阪神時代が最初だ。
そののちメジャーに帰ってからは三振王と言っても差し支えないほど三振をしている。しかし活躍はご存じのとおりだろう。
阪神で「ホームランを打て。三振しても多少はお目こぼししてもらえる」という発想が芽生えているのが分かる。
三振して失う期待値よりホームランを打つ期待値が高ければ打率.250前後で200近く三振しても使ってもらえることを日本で学び、メジャーで昇華している。ライアン・ボーグルソンやマイルズ・マイコラスもそうだ。

どこであろうが野球を通して何かを学ぼうとする姿勢が選手の将来を決めるのだ。
今ある手持ちのカードと与えられたミッションを使いながら自分らしいプレーを求め続ける姿勢にこそ助っ人外国人活躍のチャンスがある。
よく再現性という言葉が野球で出るようになってきたがこういった野球的人格のことを差すのではなかろうか。

つまり、野球選手としての自己成長を促すことができる選手が活躍でき、それは成績というものでもしっかり表れてくるのである。

5,終わりに変えて ~今後の助っ人外国人~

日本球界に望むこと…グローバルな視点で世界の野球に好影響を与えてほしい!/元オリックス・マエストリ「カルチョの国から」06(週刊ベースボール)

イタリア出身のマエストリからこのようなコラムが出た。
WBCが世界の野球にかなりの影響を与えている。これまでマイナーな扱いであった欧州野球にスポットが当たり、日本でもチェコ野球のように目立つきっかけが生まれたりと過去のようなアメリカ周辺と一部アジアだけという時代に終わりを告げ始めている。

アフリカではウガンダ、タンザニアなどを中心に日本の海外青年協力派遣隊が野球を教えており、少しずつであるが日本に来ている選手もいる。
タンザニアではタンザニア甲子園を開催して11回目を迎え(https://www.j-absf.org/news-20231226)、ウガンダではtwitterでの雨中のレンガ投げで一躍有名になったウガンダのデニス・カスンバがドラフトリーグに招待された。(ウガンダから目指すは大リーグ 夢の切符つかんだ18歳の野球選手/
AFPBB)

政治体制の兼ね合いで距離を置かれがちな中国も社会人野球選抜に国際試合で勝利するなどすでにアジアですら日本と一部区域のものだけではなくなりつつある。(野球日本代表に「中国が史上初めて勝利」 歴史的1勝に中国ネット上も歓喜「歴史の証人になった」【アジア大会】

今まで日本とアメリカおよび一部東南アジアと中南米、という野球事情がWBCをはじめとしてどんどんと塗り替えられている。欧州野球の雄としてオランダやイタリアが台頭したのは記憶にも新しい。今でも二国を中心にドイツ、スペイン、フランス、イギリスなどがしのぎを削り、そこにチェコが乱入する形になりつつある。
欧州野球の選手事情は八木虎造の「イタリアでうっかりプロ野球選手になっちゃいました」が実態を面白く描いているので欧州野球を知りたい人は一読されたい。野球未開の地とかいう前に。

世界における野球とその選手需要が変わりつつあるのだ。

それはつまり今までのような「外国人≒助っ人」という感性でいいのか、という疑問が芽生える。
確かに自国リーグを守るために外国人には一定の制約をつけるべきであろう。助っ人外国人制度そのものを否定するつもりはない。日本はまだ緩いほうで前述の書籍だとイタリアでは投手、捕手など一部ポジションに制約が出たりする。自国の選手が活躍する場所を守るためだ。人員制約はありつつもどこでも守ることが許されるNPBはまだ寛容な方だ。

ただ、これからもっと世界の「外国人」事情はシースルー化されていくだろう。それこそソフトバンクが育成契約を使ってこういうことを多く試している。今年もウガンダの選手が育成契約した。(ソフトバンクの筑後キャンプにアフリカ出身2選手…「ウガンダでお手本になりたい」

恐らく今後はどこでキャリアを始めたか、などであり方が変わってくるだろう。リーグ所属における選手ライセンス制のようなものが確立されていくと想像される。アメリカでキャリアスタートしたらアメリカ野球選手としてのライセンスを、欧州でスタートしたら欧州野球選手として、といった具合にだ。
それによって助っ人外国人事情も変わってくるはずだ。いや、助っ人という考え方自体が変わってくるかもしれない。過去のイーグルス(後楽園イーグルス。東北楽天ゴールデンイーグルスにあらず)のような選手の多くが外国人で構成されるようなチームが生まれる可能性だって出てくる。
過去日本が経験したグローバリゼーションの波が野球界にも恐らくやってくるだろう。それはすぐではないかもしれない。しかしWBCを主導したのが日米ならば、それはいつか必ず受け入れる必要性に迫られるであろう。

その時、もう日本には「助っ人外国人」というものは過去のものになっていくのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?