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プロ野球球団拡張は必要か

1,人知れぬうちに一球団がまた消える

福井ネクサスエレファンツ運営撤退のお知らせ

またもや、という印象を受けている。
福井ミラクルエレファンツから球団撤退を受けて福井ワイルドラプターズとして再発進、日本海オセアンリーグの一チームとして再出発した福井エレファンツがまたもや球団撤退という状況に至っている。
改めて独立リーグの地方球団が経営していく事の難しさを覚えずにはいられない。
一度であれば経営の失敗も考えられるが複数回の失敗は福井への独立リーグを必要としない態度の表れのように思えて仕方ない。

言わずとも知れず独立リーグの日本におけるあり方は難しいところにある。
選手として金銭を貰いながらプレーしている以上「アマチュア」とは呼びにくいところはあるが、選手一人一人にその自覚はなく、どちらかというと「NPBへの足掛かり」として考えており、また全てではないにせよ複数球団もそう考えている。移籍負担金などが球団の費用となっているためである。
現状では独立リーグはあくまでプロという見解を持たれていない。これはファンを除く一般の人々から見たら仕方ないところであろう。

アメリカでは独立リーグが生まれては消えているためこれもビッグリーグの下に置かれたプロ野球の現状であるのは仕方ないところではあるのだろうが、それにしても地方リーグの苦しさというものを思い知らされる事になる。

しかし改めて思うのがNPBでもたびたび話題になるエキスパンション、いわゆる球団数拡大構想である。

2,プロ野球チームの観客動員数

1,331,131人。一試合平均18,748人。
これは2022年東北楽天ゴールデンイーグルスの総合観客動員数とされる。(プロ野球Freak調べ
2005年の創設からここまで伸びてきているのが宮城にチームを置いた楽天の存在感であろう。ちなみにパリーグで一位は1993年の福岡ダイエーホークス以降2,000,000人をコロナ禍以外で割った経験がない福岡ソフトバンクホークス2,247,898だ。
地方に根付くというのはまさにこのことであろう。

しかし最初から経営が順調だったわけではなく、150万人を超えた年が日本一、球団創立10年を達成した翌年の2015年でその以前は120万人前後であることを考えると、いかに10年以内での日本一がイーグルスというチームに経済効果をもたらしたかを考えるには大きな判断材料となるだろう。
今年も前半のコロナウィルスの影響を受けなければ十分150万人を目指せた。

しかしこれが10年以内で日本一にならなかった場合、このように至れたのか、という疑問はある。

今年日本一になったオリックス・バファローズがまさにその典型例で、大阪という本拠地、阪神電鉄ドーム前駅などの好アクセスなのにも対し2013年まで150万人を割る事態に至っている。
2014年から2016年の三年間に170万人まで戻しているが、2017年に至ると160万人に低迷し、その辺りをふらふらする事になる。
同じ沿線に甲子園球場があるため阪神タイガースにファンが持っていかれるのは仕方ないにしても200万人を切った事がないタイガースに対して人口規模や夏の高校野球全国大会、社会人野球日本選手権と野球と根強い関係にある大阪にしてはやはり弱いと言わざるを得ない。
この二、三年の強さで観客が増える事は期待できるが、大阪という都市圏に至っても経済圏的なライバル球団の存在を加味してこの人員である事は見捨ててはなるまい。
大阪の推計人口は令和4年9月1日現在で8,788,623人。(大阪府公式より)
甲子園球場が兵庫にあるとはいえ大阪含む関西の人は大阪のバファローズより兵庫のタイガースを選ぶ、という事だ。
リーグの差や歴史、特にバファローズは創設までの経緯が複雑であるから一概には言い難いところはあるものの、これを見ると都市圏でも定着率が低ければ来客が稀になっていく事がわかる。

プロ野球チームがあれば来客があるわけではない。
パリーグではその稀有な存在感を放っていた西武ライオンズでさえ、西武黄金期である1980~90年代を過ぎるとゆるやかに観客動員数が落ち、自由枠制度における裏金発覚では100万人まで落ちている事を考えるに

プロ野球=かならず客が来る

というわけではないのだ。
確かに独立リーグなどに比べると歴史があるから来客は見込めるであろうが、それはあくまで希望的観測でしかないのだ。楽天がもし10年以内で田中将大達による日本一や東日本大震災の希望の柱としていなければここまで経ちえたのだろうか。
下手をしたら100万~120万人前後をふらついてオーナーが変わっている可能性だって十分あり得たのだ。

3,NPBのリーグを取り巻く集客傾向

数年前エキスパンションが非常に話題になった時、私は疑問を覚えたものだった。

「楽天があれほど苦しんで今の立場に至ったのに、何故作れば簡単に盛り上がると考えるのだろうか」

例えば前述の阪神だが、阪神は歴史上巨人とライバル関係にあると言われている。
これはプロ野球のチーム同士としてというよりは東京と大阪の代理戦争的な要素が非常に強い。日本の首都である東京と第二の都市である大阪が野球という形で対抗戦として定着したからこそ今がある。
今思えばパリーグは毎日オリオンズと阪急ブレーブスがそうなるべきだったのだろうが、残念ながらそうはいかなかった。毎日は撤退し流浪を経験したのち川崎を得て千葉に至り、阪急は阪神、南海との私鉄対抗戦を意識しながら1949年二リーグ制へ変化していくタイミングで阪神はセリーグに行ってしまった。近鉄も参加したが時代は私鉄対抗戦の時代ではなくなり、駅周辺を開発する沿線開発計画は形の変更を余儀なくされた。

そういう意味ではセリーグはある程度コンセプトがあった。
「東京の大チーム読売ジャイアンツとライバル阪神タイガース、そしてライバルたち」
というプロレス的なコンセプトがきっちりとあり、しかもそれが1965年から始まる川上V9と共にしっかりと印象付けられた。あたかも無敵の力道山がアメリカから押し寄せてくるレスラーたちを倒す事で名声を得ていくような構図があり、それを親会社の読売新聞がしっかり広報、アプローチしていったからこそ現在のセリーグの経営が生まれ、現在は変わりつつあれどその構成のまま観客動員数を増やしているのだ。
人気のセリーグ、という言葉はこのコンセプトの上に成り立っている。

そういう意味では新球団はセリーグであるといいかもしれない。
なんといっても無敵の巨人様のライバルが増えるだけなのだから。実際江川問題で巨人がNPBから脱退をしようとした瞬間があったが、あの当時の巨人であるなら十分成り立ったであろう。舞台が変わるだけであろうから。
よくも悪くも巨人という力道山的ポジションがいるからこそセリーグは成り立っている。
とはいうものの新聞の購読者が減り、読売自身もマスメディアという場所から段々今までのような力を失ってきているからこの構図もいつまでもつか分からない。巨人阪神戦という代理戦争がある以上簡単に陥落はしないが、趣味の多様化、趣味に使う時間が減ってきている今を考えるとそれもどこまで通用するかという問題がある。

これがパリーグになると非常に難しくなる。
パリーグはよくも悪くも巨人という力道山的なコンセプトを持たずに生まれた。南海、阪急、西武と黄金期を作ったが結局巨人のような広告パフォーマンスを生み出すには至れなかった。唯一その軌道に乗っかかれたといっていいのは福岡に密着し、文字通り九州全土の声援を受ける土壌を作った福岡ダイエーホークスをきっちり継承し、さらに発展させた福岡ソフトバンクホークスであろう。
そのホークスですら、過去の巨人と他球団のような構図になっていない。野球ファンに「パリーグと言えば?」と言われたら違う回答が出てくるだろう。セリーグのようにまず巨人か阪神、のようなものではない。
ある意味その独立性と均衡性がパリーグの特徴であり、きちんと経営が軌道に乗れば地域密着という言葉と共に繁栄を約束されるだろうが、セリーグのような広報が出来ない。立ち上げて、地域にしっかり密着して、ずっと愛してもらう事を求められるのだ。

言い換えれば
「巨人に強く嚙みつけないチームはセリーグには不要」であり
「経営基盤をかっちり固められないチームはパリーグには不要」なのである。
これも変わりつつあるが今のところはこの構図が保たれたままである。
これがNPBのリーグを取り巻く環境なのである。

4,アマチュアやセミプロが活躍する場を

これは持論であるのだが、恐らくプロ野球を作っていくよりも独立リーグのようなセミプロやアマチュアの活性化をどんどん図っていくべきではないだろうかと考えており、それが確信に変わりつつあるのが今回の福井撤退の印象だ。

というのも結局のところ
「地域に野球が根付いていなければ観客は増えない」
という結論に行きついたからだ。

はっきり言ってしまえば関東や関西と言ったところで野球をやる事自体は難しいわけではない。というのも人口が多いのもあるし、野球に慣れたどころか目の肥えた客も多い。そのため一定のクオリティとリーグの魅力があればなんとかなる。

しかしこれが地方に入るとどうだろうか。
人口の暴力で何とか出来る都市圏とは人口も違えば必ずしもそこの人口が野球を好きであるかどうかは別の話だ。
例えば静岡は100万人都市ではあるがその多くがJリーグへの興味を強く持っている。清水エスパルスやジュビロ磐田といった二大看板にアスルクラロ沼津や藤枝YFCなどJリーグに参加する組織が多いためだ。
少し古めのデータではあるが2011~2016年では観戦種目ではJリーグが11.56%と一位で二位の高校野球でも10.61%、三位のプロ野球に至っては6.72%とダブルスコアに近い状態である。そのJリーグですらテレビ視聴という点ではマラソン・駅伝に敗北するのだ。(都道府県の運動・スポーツ実施率別データ:静岡県/笹川スポーツ財団より)
陸上、サッカー大国の静岡に野球がどこまで割り込めるのか、という疑問はある。

このように必ずしもその地域を結ぶ娯楽があるのである。
福井県でもNPBの視聴率が58.33%である(福井県/笹川スポーツ財団)
その福井県ですら「独立リーグ」という肩書だけでまともに立ちいかなくなった経緯を考えるに、もし仮にプロ野球チームを作ったとして成り立つのだろうか?疑問が残るのだ。
そこそこ土壌があっても実際にチームがあると失敗しているのである。

それを「NPBブランド」があるだけで成り立つと考えるのはあまりにも軽率すぎないか、と思うのだ。
MLBのエキスパンションですら1958年のブルックリンドジャース、1959年のニューヨークジャイアンツの西海岸へ球団移設がなければ成り立たなかったはずだ。この二球団の移設が交通手段の新しい時代を確信したかこそではないのか。

少なくとも「野球を観慣れている層」がいなければどれだけ大層な事を言っても客層はつかない。
経済効果だけでは観戦者は増えないのだ。楽天ですら田中将大と野村克也というカードがなければここまで成長できたのかすら怪しい。高校野球を観慣れている層とプロ野球を観慣れている層、そしてその二つが融合し、かつ強くなっていったからなんとかなったのだ。
それだけではない。1982年に開業していた東北新幹線で関東の人が「ちょっとした旅行がてら」で行ける仙台だったのも大きい。東北に遊びに行こう、と思ったらまず提案されるのは仙台のはずだ。そして新幹線を使えば一泊二日で手軽に行ける距離である事は考慮しなければならないはずだ。
こだましか止まらない静岡では厳しい。

無為無策に作っても待っているのは高橋ユニオンズのようになるだけだ。

だからこそ地域の選手が多く在籍するアマチュアやセミプロが長く存続する地域づくりをしていかなければならない。
そこから生まれた選手がビッグリーグに渡り、錦を飾りに戻る事で新たな時代の育成が可能となる。プエルトリコにロベルト・クレメンテがいたからこそプエルトリコ野球が伸びあがる要因と似ている。
そして地域に住む人々が球場に来る環境をどんどん整備していかなければ砂上の楼閣が一つ生まれるだけなのだ。セリーグにおいても最初は物珍しさと巨人が観られるからと球場に詰め寄るだろうが、昭和から平成初期よろしく巨人戦以外はどこか閑古鳥の鳴く球場が一つ出来上がる事になる。
なんなら現在のファンは交通網の発達に伴ってどこへでも駆け付けるようになったからビジターの方が観客増なんて事態になりかねない。

「やる層」と「観る層」の徹底化。
これがなければ無理であろう。
ではどうするのか、と言われたら、これは草の根活動をしていくしかない。地域がクラブチームやセミプロチームを作って地道に観客を増やしていく。そして地域の選手を応援し、話題にしてもらう。
一方選手は地域を話題にして広告塔として活動してもらい、地域の魅力を県外に伝えていく。その相互関係で地元に密着したチームを作り、チームを見てくれる環境を作っていく。
こういう地味でしかも効果の見えにくい活動をずっとやって行って初めて成り立つのだ。

そのためには地域に多くの野球をやりたい選手がいなければならない。
実力は高くあればいいが、まずはやりたい層だけで構わない。そういう人間がどんどん参入して、地域で熱を作っていくしかないのだ。
それが大きくなった時、初めてプロ野球チームの登場が意味を成してくる。地域とチームの相互関係が成り立つ環境を大きくしていくのだ。

プロ野球は日本野球の先端ではあるが中央たりえない。地域の野球熱を象徴する存在としてプロ野球は成り立つが、プロ野球があるから地域の野球が活性化するとは限らないのは福井で証明されたと言っても差し支えない。

だからこそアマ野球なのである。
小さな灯を絶やさない事、それを大きくしていく事が出来るのはアマチュアでしかない。資金を投入すれば必ず客が来てくれるわけではないのだ。
改めてそれを実感させる結末であったように思う。

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