見出し画像

ホラクラシー憲法 5.0 を和訳しました

この9月に、ホラクラシーのルールである ホラクラシー憲法の最新バージョン(5.0)のベータ版 がリリースされました。ホラクラシーの最新の状況にいち早くキャッチアップするため、新バージョンの憲法の全文の翻訳を行ないました。

翻訳の全文は github にて公開しています。

翻訳バージョンも、本家様と同じくオープンソース(CC BY-SA 4.0) での公開ですので、ホラクラシー5.0を導入される際にはどうぞご活用ください。その際、もしよろしければ、この note にサポートいただけますとメンテを続ける励みになります。

この note では、翻訳後記として、翻訳した際に気づいた現行バージョンとの違いなどについて書いていきます。あくまでも個人の研究によるものなので、誤った解説等があるかもしれません。あらかじめご了承ください。

想定読者
・ある程度ホラクラシーを知っている方
・ホラクラシーを実践している方
・ホラクラシーの最新情報に興味がある方

また、note は初投稿ですので、ざっと自己紹介をしておきます。LAPRAS株式会社でプロダクトマネージャー(兼、時々アルゴリズムエンジニア)をしています。また、プロダクト開発の傍ら、Facilitator として全社のホラクラシーの運用を行ったり、個人的な活動としては、 RELATIONS株式会社 様にてホラクラシー導入のお手伝いをさせていただいたりしています。
初投稿でいろいろと至らぬ点もあるかと思いますが、よろしくお願いします。

ホラクラシーとは?

ホラクラシーとは、Holacracy One の Bryan.J.Robertson が提唱した、新しい組織の形です。ホラクラシー憲法によって明確化されたルールとプロセスに従って、分散独立し、自立進化する組織を目指していることが特徴です。導入企業も増えてきており、Airbnb、Zappos、Medium そして LAPRAS など、様々な企業が導入しています。

本稿では、ホラクラシーについてある程度の知識があることを前提としています。ホラクラシー自体の解説は、例えば以下をご覧ください。

ホラクラシー憲法 5.0 とは?

ホラクラシー憲法は、オープンソース(CC BY-SA 4.0)で公開されており、Holacracy One によってメンテナンスが続けられています。
2019年10月現在、正式に公開されているバージョンは、4.1 です。

2019年9月に、ホラクラシー憲法のバージョン5.0 のβ版がリリースされました。今回のバージョンアップはメジャーアップデートであることもあり、これまでの憲法とは大きく変化しています。今回は、こちらのβ版を全部翻訳しました。

ホラクラシー 5.0 での大きな変化

ホラクラシー憲法翻訳を進める過程で、特にこれまでの憲法と異なると感じた点は以下のとおりです。

サークルの構造に関すること
・ ロールが自由にサークル化できるようになった
・ ロールが集まって自由にサークルが作れるようになった
・ タクティカルミーティングが、サークル単位である必要がなくなった

権限委譲のプロセスに関すること
・ サークルリードの権限委譲のプロセスが定義された
・ 領域(Domain) が入れ子構造であることが要請された
・ お金の決済に関するルールが定義された

これ以外にも、大小様々な点が変わっていますが、尺の都合上、以下ではこれらの項目について詳しく解説していきます。

サークルの構造に関すること

ホラクラシー4.x と5.0 では、サークルの概念が大きく変わります。
ホラクラシー4.x では、サークルはロールの一種でしたが、5.0では逆に、憲法で規定された一部のロールを除き、全てのロールはサークルでもある(内部にサークルをもつ)という関係になっています。

この違いは、一見小さいように思えますが、大きな違いをもたらします。

まず、ロールが元からサークルであることから、そのロールをサークル化するのに親サークルのガバナンスが必要ないということです。

例えば、あるロールが、実際には複数の役割の集合であることがわかったとき、そのことについてよく理解しているのはロールにアサインされている人であって、サークルの他の人ではありません。また、ロールの役割を分解することは、他のロールへの影響は殆どありません。この事を考えると、ロールを分解するのにサークルのガバナンスを必要としないのは、よりロールの実情を知っている人が、ロールのあり方を決められるルールになっていると思われます。

また、サークルがロールの一種ではなくなったことに関連するルールとして、複数のロールが集まって、自由にサークルを作ることができるようになりました。

スクリーンショット 2019-11-07 21.54.13

図1: 複数のロールが集まって自由にサークルを作れるようになった

これまで、サークル構造は、ツリー構造、つまりロールを包含するサークルは1つまででした。このため、 LAPRAS では、あるロールがどのサークルに属するか(どこのサークルのタクティカルミーティングで報告すればいいのか)でガバナンスに多くの時間を割いてしまいがちでした。このことが、ホラクラシー 4.x に対して「官僚的」「縦割り」というイメージを与えてしまっているように感じます。

ホラクラシー5.0 の新しいルールでは、ロール同士が集まって自由にサークルを作ることができるため、より自律的に組織化が進むとともに、どのロールがどのサークルのタクティカルミーティングに参加すべきかの議論に終始することなく、本質的なガバナンスやオペレーションの議論に時間を使うことができます。
(ただし、このように作られたサークルは、通常のサークル(ロールが派生したサークル)とは扱いが若干異なり、ドメインやお金の決済権など、与えられる権限に制約があります)

関連するもう1つの変更点として、ホラクラシー5.0ではタクティカルミーティングをサークル単位で開かなければならないという制約がなくなりました。

前述の「ロールをどのサークルに入れるか」問題は、プロジェクトやメトリクスなど、ロールのオペレーションをどのサークルでモニタリングするか(つまり、どのサークルのタクティカルミーティングに出るか)が大きな原因の1つでした。タクティカルミーティングの参加者の変更がガバナンス変更を伴うために遅いことで、最適な状態に追従することが難しく、例えば、ほとんど何もせずにミーティングに参加だけしているような状況や、タクティカルミーティング外で見つかったひずみが処理されないまま放置されてしまうという状況が発生しがちでした。タクティカルミーティングを任意のロールがサークルと関係なく開けるようになったことで、ガバナンスを待つことなく、テンポ良くオペレーションを回せるようになりました。

権限委譲のプロセスに関すること

ホラクラシー憲法 4.x には「理想的な状態」が書いてあるのに対し、ホラクラシー5.0 には、それに加えて「どのように理想的な状態に近づくか」という具体的な道筋が示されているように感じられます。

ホラクラシー5.0 のサークルリード(リードリンクから改名)は、サークルの予算の決裁権や拒否権など、サークルのほとんど全てを決められる大きな権限を持っており、これらの権限を新たなロールを作ることで委譲するルールが定められています。このことは、上述の「ロールをガバナンスなしでサークル化できる」というルールからも見て取ることができます。

始めに、あるロールに1人がアサインされたとき、そのロールに関することは全てその1人(この人をホラクラシー5.0ではロールリードと呼びます)が意思決定して実行します。このロールがやることが増えてサークル化したとき、ロールリードはサークルリードとなりますが、その時点ではまだそのロール(サークル)に関する全ての権限を持っています。このサークルに新しいロールが作られ、他の人がアサインされたときに初めて、その部分の権限が委譲されます(これにより、サークルリードはその部分の権限を失います)。

このように、「原来サークルの全ての権限を持っていたサークルリードが、サークルが大きくなり細分化されるにつれて、親サークルから子サークルに権限委譲していく」という構図を見て取ることができます。このような権限委譲プロセスを背景に、様々な権限が親サークルから子サークルへと委譲されていきます。その際たる例が、領域(ドメイン)お金の決裁権です。

ホラクラシー4.xでは、ロールが独占的にコントロールすることができる領域(ドメイン)を、そのロールが属するサークルで独自に設定することができました。このようにして作られたドメインは会社全体に影響を及ぼすため、例えば、サークル階層の奥深い小さなサークルのロールがいきなり大きなドメインを行使するということが起こりえてしまいました。これに対し、ホラクラシー5.0では、ロール(子サークル)のドメインは、親サークルが保持しているドメインの一部でなければなりません。つまり、ドメインはサークルを下るごとに細分化される入れ子構造になっていなければなりません。一見、中央集権的に見えますが、これは、もともと親サークルが持っていた権限を、子サークルにドメインという形で明示的に委譲していくという思想に則っています。

また、ホラクラシー4.x の憲法では、お金の決裁権については特に規定がありませんでした。これに関しても、ホラクラシー 5.0 では親サークルが子サークルに対してお金の決裁権を与えていくというプロセスが定義されています。

スクリーンショット 2019-11-07 21.54.31

図2: 親サークルから子サークルへ決済権を与えていくプロセスが定義された

このように、ホラクラシー4.x では「分散自立型組織はかくあるべき」という最終的な理想形しか書かれていなかったのに対し、ホラクラシー5.0 では、ドメインやお金の決裁権など様々なものが親サークルから子サークルに明示的に委譲されていくことで(これにより親サークルはその権限を失い)、中央集権的な組織から自立分散型の組織へと進化していく力学が作り込まれていることがわかります。

組織が成長するためには、もともと1人がやっていたことを複数人で分担していくことは絶対に必要です。極端な例を挙げると、創業直後の社長1人の会社は、社長自らが全てのことをやる究極の中央集権組織です。そこに2人目、3人目の社員が入社した場合、これまで社長が行わなければならなかった仕事の一部を彼/彼女らにやってもらわなければなりません。つまり、成長企業において自立分散型の組織を作るためには、人が増え続ける限り、常に権限委譲をし続けなければなりません。このことからも、4.x のように「あるべき姿」を提示するだけでなく、5.0のように「常に権限委譲を続けるプロセス」を定義することが重要であると言えます。

まとめ

今回は、ホラクラシー憲法5.0 を翻訳した上で気づいた現行バージョンからの大きな違いについて、2つの観点から説明しました。

サークル構造に関すること
サークル構造の自由度が上がったことで、これまで存在した制約のためにしばしば発生していた「このロールをどっちに置くか問題」のような、あまり本質的でない議論に時間をかける必要がなくなりました。

権限委譲プロセスに関すること
バージョン4.x では、「こうあるべき」という形だけが書かれていたのに対し、5.0 では、もともと親サークルが持っていた権限を子サークルへと委譲していくプロセスを定義することで、より自立分散した組織へと常に進化することができるようになりました。

今回は、内容的に大きく変わった部分をメインに紹介しましたが、憲法全体の文書構造が変わっているなど、細かいところまで考慮すると非常に多くの変更がなされています。新憲法のより詳しい解説はゆくゆく行っていきたいと思っています。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!
もしよろしければ、サポートをお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?