女の子のプラモデルをつくる言い訳
「あなたの趣味は何ですか?」
ここまで改まって聞かれるのはお見合いぐらいかもしれないが、いろんな付き合いの深さと人と合っているとたまに自分の趣味について答える時がある。
趣味を回答する時、だいたいプラモデルか模型作りと答える。すると少し興味をある人は「どういうプラモデル作るの?」と聞き、私はガンダムとかロボット系と答えてきた。作ったやつは部屋に飾ってあるよ、フィギュアもあるけどあるのはロボットだけだよ、と。正直に言えば、相手に引かれないために女の子フィギュアじゃないよという気持ちをその答えに乗せていた。
実に言い訳がましい人間だ。物を買う時や、新しい一歩を踏み出す時にも自分に言い訳をしてしまう。初めてロボット以外の、飛行機のプラモデルを作ったのもマクロスに出てくるバルキリーだった。これはスケールモデルではない、アニメのプラモなのだと自分に言って。ただなんとなくスケールモデルと呼ばれる飛行機や戦車のプラモデルは難しそうで、なんとなく敬遠していた。
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今、プラモデル業界は空前の女の子プラモのブームが来ている。
火付け役はコトブキヤのフレームアームズガールだろう。オリジナルプラモのスピンオフから生まれ、コトブキヤが大半の制作費を出してアニメまで作ってこちらもヒット(すごい)
△6月29日から映画もやるよ
今やこの流れは他のプラモメーカーも巻き込み、バンダイもガンプラと密接に関わらせながら展開する等、今や女の子のプラモデルは各メーカーが力を入れている重点領域に。
特にバンダイの商品は、組み立て式の女の子フィギュアではなくロボットプラモデルの延長にあるものとして、境界をぼかすように提供されているように感じる。上記のすーぱーふみなはガンプラと戦う女の子のプラモのプラモ(難)だし、そもそもフレームアームズガールまで含めて昔からあった1ジャンルの「ロボットx女の子」のプラモデルだ。
結果として、女の子プラモデルは模型店、量販店のガンプラの隣の棚に並ぶことになる。僕がとても手の取りやすい場所に。箱を見るたび、お店に並ぶ完成見本を見るたびに「これは女の子成分の入ったロボットのプラモデルだから…(よってセーフなのでは)」と自分の中でせめぎ合いを続けていた。しかし、よし買おうと踏み出すことも出来なかったのだ。なんて面倒な(ry
そんな中、1つの商品が発売された。
フレームアームズガール主人公「轟雷」のJUN WATANABEカラーデザインバージョン。JUN WATANABEさんはタミヤともコラボする、模型寄りのデザイナーさんらしい。雑誌ホビージャパンに掲載されていたインタビューによれば、青いタイツを着たデザインにし肌色を減らすことで抵抗のある人にも手に取りやすく、きっかけになるようにという意図だという。
あー、それって僕のことですね。わかるわかる。
と思いながら購入ボタンを押したのだった。
女の子、というか人体のプラモデルは不思議なものだった。
ガンプラと同様に、手足や胴体、頭が2つ以上のパーツに分割され、平面に並んでランナー(枠)と接続している。
パーツの並びはガンプラと同じでありながら、そこに配置されているのは直線で構成されたロボットの装甲板ではなく、人体の織りなす柔らかい曲線。肌色のプラスチックで成形すればそのパーツは素肌になり、青色で成形すればタイツになる。そう、地肌→青いタイツにデザインを変更しているがなんと形は変わっておらずプラスチックの色を変えただけなのだ(このキットには色分けの都合で2色の同じランナーが入っている)。表現方法を変えただけで意味合いを変える、これはとてもプラスチック的だ。
パッと目につくのは直線で構成されたロボットの装甲。しかしその隙間に見える肩と腕は人のソレである。そして目線を下ろせば有機的な曲面のスカートがあり、中にいるのは女の子であることが示される。後述するがこの頃はまだロボットとしてのポージングをしているな…
後ろから見れば、ロボットのバーニア(推進ロケット)の形状が目に入るが、そこにはお尻がある。お尻を組むという経験の扉を開いてしまう…(しかしこれはボディースーツなのでセーフ…)
塗装してデカールを貼り、最後の組み上げる一歩手前の状態。人体がばらばら。でもプラモデルだから自然。完成品フィギュアにはできない過程の表出が、女の子のプラモデルの本質かもしれない。
そして完成。
△元々肌色だったパーツを青色にすることで
肌→ボディースーツにするというアイデアが本当に素晴らしい
ポージングも苦しんだ。
ロボットのカッコいい立ち姿と、女の子の可愛い立ち姿は全然違う(当たり前)。ロボットには似合わないナヨっとしたポージングが、可愛らしさ・守ってあげたくなる印象をつくる。しかもただ女の子なだけでなく、装甲を着混んで武器も持つ。武器を持つ女の子に対して思い出せるイメージがBLACK LAGOONとHELLSINGしか僕は持ち合わせておらず、「可愛く武器を持つ」の答えがめちゃめちゃに難しい。なんなんだ。そんなポーズあるのか。
ずっと欲しいと思っていた女の子のプラモデルを、買って、作って、塗った。もう僕には、言い訳は必要ない。なんと清々しい気分なのか。僕にはただ、可愛く作って飾りたいというピュアなモチベーションがあるのみだった(もう帰ってこれない)
△このツヤを凝視すると視力が上がります
一度言い訳をして踏み込んでしまえば、あとは簡単だ。全ての物事はその一歩目が最も難易度が高い。これは趣味の世界でいわゆる「沼」と呼ばれるものの入り口の話であるが、本屋の自己啓発コーナーもビジネス書コーナーも、だいたいがこれと同じ話をしているのを知っている。アイデアがあった人は1000人、実際に検討した人は100人、実行した人は10人〜とかそんな感じの話だ。あのビジネス書たちは正しかったのだ。
そんな天啓を受けていた丁度その時、新しいフレームアームズガールが発表された。
どう考えても肌の露出が高い、ロボ要素の薄い女の子のプラモデルである。もはや前回使えたロボット成分の言い訳は通じない。しかし何を恐れることがあろうか。もう私には言い訳自体が必要ないのではないか。
目にかかるアシンメトリーなショートヘア、薄い髪色、高めの露出、ビキニアーマー…その他諸々とても刺さるものだった。正直言おう、ど真ん中だ。刺さる属性てんこ盛り。思えば、セーラーマーキュリーから始まり「逮捕しちゃうぞ」の辻本夏実、アイナ=サハリン、最上もが…ずっとショートヘア推しだった。
そう、これは流れなのだ。波だ。ビッグウェーブだ。
生きているとこういうタイミングはいくつもある。これは自分向けかもしれない、これは流れがきているのかもしれないというタイミングが。そのチャンスを掴めるかどうかなのだ。
何ヶ月も先の発売の商品だったが、躊躇なく予約していた。おそらくこのキットは人気なり売れる。ひょっとしたら即売り切れるかもしれない。絶対に欲しいから買う。それだけだ。
そして5月末、いよいよ商品が到着。
何ヶ月も待った。それまでにホビーショーやコトブキヤショップで何度サンプルを凝視してきたことか。居ても立っても居られない、すぐに組むしかなかった。
前回組んだ豪雷はシリーズ初期の製品で、それと比較すると構造がだいぶ推敲された跡がある。
プラモデルは通常、2枚合わせの金型の間に溶けたプラスチックを流し込み成形するが、そのため入り組んだ形状は作れない。それを解決するために3つ以上の金型を組み合わせるスライド金型というものを使って、胸のオーバーハング(横側の膨らみ)の再現をしている。これだけで相当コストは上がるはずだが、胸の形状再現のためならば必要なコストだと判断しているのだろう。ただただ感謝である。
一番複雑な構造の髪の毛は、なんと9個ものパーツが360度方向から組み合って生み出されている。ハネている髪はパーツを別にしなければならず、パーツが増えればコストは上がる。どの角度から見ても素敵なショートヘアにするための力のかけ方。
腕や胴体、太ももも肌色のパーツを組み合わせて、自分の指でパーツを押し込んで組み上げる。力をかけ過ぎると壊してしまうのでは?という心配がよぎる。ガンプラでは感じたこともなかったのに。形状ひとつでそこに思いやりが発生するなんて、誰が想像したんだろう。
今までに味わったことのない組み味、好みの人体が組み上がっていくフロー。途中写真を撮ることも忘れて作った。ここまで組み上げること自体が楽しいプラモデルは初めて。
かわいー
女の子のポージングなどしたこともないので、撮影にあたってWebを漁って勉強する。この子のために頑張って何かを成し遂げようとする姿はとても健気だろう(相手はプラモデルです)。
ポーズとアングルを決めて、シャッターを切る。これが撮影会か。完全に新しい扉が開いていた。
△このお腹が前面1パーツで出来ているのすごくないですか???
アバラとおへそ、そして脇腹周りの凹凸ラインーー
僕の趣味の世界は広がった。
踏み出すために少しの言い訳が必要だったが、高々自分さえ説き伏せられればいいのである。なんと簡単なことか。
趣味とはこういうものだから面白い。
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