2020年10月1日からの予防接種の接種間隔のルール変更で, 実際に何が変わったか?

2020年(令和2年)10月1日から, 異なるワクチンを接種する場合の接種可能となる時期についてのルールが変更となります.
具体的には
・「飲まない生ワクチン」を接種したら, 次の「飲まない生ワクチン」を接種するまでは27日以上間をあける(4週後から接種可) (これまでと変わらず)
・それ以外の異なる種類同士の組み合わせ(例えば日本脳炎ワクチンとインフルエンザワクチン): 特に日数は気にせず接種可

・同じ種類同士の組み合わせ(例えばヒブワクチンの1回目と2回目など): 決められた期間をあけて接種する(これまでと変わらず)
となります.


「飲まない生ワクチン」という用語は一般的には「注射生ワクチン」と呼ばれています. ただしBCGは一般的には注射というイメージからやや遠いと思われるので, わかりやすさを重視して, 本記事では「飲まない生ワクチン」という用語を用いています.

では実際にはルール変更により具体的にどのように変わるのかをもう少し詳しくみていくことにします.


「飲まない生ワクチン」同士の期間について

まず知っておきたいのは「飲まない生ワクチン」とは具体的にはどのワクチンが該当するか, ということです.
一般的に用いられている「飲まない生ワクチン」としては以下のものがあります(*注).

・BCG [定期]
・MRワクチン (麻疹・風疹ワクチン) [定期]
・水痘ワクチン [定期]
・おたふくかぜワクチン [任意]

これらのワクチン同士は27日以上間隔をあけて接種する必要があります(図). つまり次に「飲まない生ワクチン」を接種できるようになるのは4週間後ということになります. このルールはこれまでと同じです. ここだけ覚えてもらえれば大丈夫です.

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では実際にはどのように影響するかと言えば, 実のところは推奨されているスケジュール通りに接種している場合には大きな変化はありません.

具体的には, 注射の生ワクチンはそれぞれいつごろ接種するようになるかというと
・BCG: 1歳未満 (生後5-7か月頃)
・MRワクチン: 1歳になったら
・水痘ワクチン: 1歳になったら
・おたふくかぜワクチン: 1歳になったら
が目安です.

まずBCGは通常他の生ワクチンとは接種期間は重なりません.
またMRワクチン, 水痘ワクチン, おたふくかぜワクチンはいずれも1歳になったら同時期から接種可能となりますから, 同時に接種すれば特にそれぞれのワクチン同士の接種期間を気にする必要はありません.

注意したいのは同時に接種しない場合です.
このルールも撤廃されたと勘違いして, 短い間隔で異なる生ワクチンが接種されるといったミスが生じる可能性が起こりえると思うので, このあたりは慎重に行うべきでしょう.


0歳での影響

BCGの接種は自治体によっても異なりますが, 集団接種で行われているところも少なくありません.
集団接種の場合, 基本的には決められた日時で接種することになると思われます.

そうなるとBCGと他の予防接種は同時接種することが難しくなるため, BCGに同時期に接種する可能性のあるワクチンについてはBCGの接種日を考慮した上で他のワクチンの接種スケジュールを考える必要がありました(*注2).
推奨されているスケジュールで接種していた場合, 同時期に接種する可能性があるワクチンとしては
・B型肝炎ワクチン(3回目)
・日本脳炎ワクチン(1回目)
・インフルエンザワクチン
が挙げられます.

ただ今回のルールの変更でBCG接種とこれらのワクチンに関しては接種期間についての制限はなくなるので, より自由に接種スケジュールを決めることができるようになります.
(なお, 稀な事象でしょうが, 地域で麻疹が流行してしまい1歳未満で「0回目」として任意接種でMRワクチンを接種することになった場合には, BCG接種との間隔には注意すべきでしょう)


1歳での影響

前述の通り, 1歳台では「飲まない生ワクチン」を接種する機会がもっとも多いので, この年齢でもっとも注意が必要でしょう.
ただし前述のとおり, 以下のように推奨されているスケジュール通りに接種する場合にはこれまでと基本的には変わりはありません.

<推奨されているスケジュールの1例>
1歳0か月
: MRワクチン(1回目), 水痘ワクチン(1回目), おたふくかぜワクチン(1回目) [このときにヒブワクチン・肺炎球菌ワクチンも同時に接種する]
1歳6か月: 水痘ワクチン(2回目) [このときに四種混合ワクチンの4回目も接種する]

繰り返しになりますが, 気をつけたいのは同時接種しない場合です. 
特に任意接種であるおたふくかぜワクチンはあとから接種する方もいますので, その場合にMRワクチン・水痘ワクチンの接種時期は慎重に確認すべきでしょう.


変更によるメリット -インフルエンザワクチン -

インフルエンザワクチンは他の予防接種と同時に接種されない場合があります. 主な理由としては以下のものが挙げられます:

・インフルエンザワクチンの接種日は他のワクチン接種日と別に設けて実施している
・価格が医療機関によって異なる (より価格の低い医療機関を求めて接種に行く場合がある)

そのため, インフルエンザワクチンは他のワクチンの接種スケジュールを考慮しなければならず, 場合によってはインフルエンザワクチンが接種できるまで待たなければならないパターンもありました.
今回のルール変更で, 接種できるようになるまで待たなくてもよくなるというのが1番のメリットだと思われます.

具体的には以下の2つのようなパターンが考えられます.

<生後6か月となり, 11月にBCG接種した場合>
新ルール: 11月にインフルエンザワクチン 1回目接種→ 12月にインフルエンザワクチン2回目接種
旧ルール:  12月にインフルエンザワクチン 1回目接種→ 1月にインフルエンザワクチン2回目接種
<11月に1歳となり, MRワクチン・水痘ワクチン・おたふくかぜワクチンを接種した場合>
新ルール: 11月にインフルエンザワクチン 1回目接種→ 12月にインフルエンザワクチン2回目接種
旧ルール:  12月にインフルエンザワクチン 1回目接種→ 1月にインフルエンザワクチン2回目接種

つまり生ワクチン接種後, 次のインフルエンザワクチン接種までの間隔の制限がなくなったことから, これまでよりも最短で1か月早く接種できるようになります.
現状ではこれがもっとも大きなメリットではないかと思われます.


同じ種類のワクチン同士の接種間隔はこれまでと変わらず

冒頭でも述べましたが, 複数回接種する必要があるワクチンでの同じ種類のワクチン同士の接種期間はこれまでと同じです.
具体的には(一般的に用いられているものとして)
・ロタウイルスワクチン
・ヒブワクチン
・肺炎球菌ワクチン
・B型肝炎ワクチン
・四種混合ワクチン
・MRワクチン(麻疹風疹ワクチン)
・水痘ワクチン
・おたふくかぜワクチン
・日本脳炎ワクチン
・HPVワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン)
・インフルエンザワクチン
が挙げられます.
これらのワクチンについては十分な効果が得られるようにあ定められた期間あけて接種するようにしましょう.
具体的なスケジュールについては『日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」』や『日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール』でわかりやすく説明されているので, そちらなどを参考にされるとよいと思います.

*注1 その他に黄熱病ワクチンが存在するが, ほとんど接種する人はいないと思われるので, 今回の話題からは除外した.
*注2 これまではBCG接種前は最低6日前, 接種後は最低27日間は他のワクチンの接種はできなかった.

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