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ロタウイルスワクチン (ver.1.3)

更新履歴
・2020年9月30日: 2020年10月1日からの定期接種化, 異なる予防接種間での接種期間のルール変更にあわせて内容を一部変更.

まとめ
・ワクチンは2種類あるが, 効果や安全性に関しては同じで, 接種回数が異なる
・ロタウイルス胃腸炎やその重症化だけでなく, 合併症のリスクも減らす効果があると考えられている
・ロタウイルスワクチンは基本的に安全性は確認されており, 効果の有益性が大きく上回っている
・2回目以降の接種時, 最初に受けた種類からは変更できない

ロタウイルスとは?

ロタウイルスは小児(特に乳幼児)の急性胃腸炎の主要な原因の1つです. 以前は冬に流行がみられていましたが, 近年は3-5月頃に流行しています.

ロタウイルス胃腸炎はその他の原因の急性胃腸炎と比べて嘔吐や下痢といった症状が強くなる傾向があります. そのため水分摂取がうまくできずに脱水傾向となり点滴や入院が必要となる症例も少なくなりありません.


ロタウイルスワクチンにはどのようなもので, どのような種類がありますか?

ロタウイルスワクチンはロタウイルスによる感染症を防ぐために開発された生ワクチンです.
他のほとんどのワクチンとは異なり, ロタウイルスワクチンは経口ワクチンであるため, 飲ませて接種します.
ロタウイルスワクチンは2020年(令和2年)10月1日から定期接種となっています.

ロタウイルスワクチンにはロタリックスとロタテックという2種類のワクチンがあります.

ロタリックス®
ヒトロタウイルスを弱毒化した生ワクチン
含まれているウイルスの種類: 1種類(1価)
接種回数: 2回
接種量: 1.5mL/回

ロタテック
®
ウシロタウイルスをベースとしてリアソータントの生ワクチン
含まれているウイルスの種類: 5種類(5価)
接種回数: 3回
接種量: 2.0mL/回


いつから接種できますか?

ロタウイルスワクチンは生後6週から接種することができます. もちろん生後6週になってすぐ接種しても問題ありませんが, 一般的には生後2か月になってからヒブワクチンや肺炎球菌ワクチン, B型肝炎ワクチンといっしょに接種することが一般的です.

日本小児科学会でも同様に生後2か月からが推奨期間となっており(*1), 実際そのようなスケジュールで予防接種をやっていることは少なくないと思われます.

<参考>
*1 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール(http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=138)


どのようなスケジュールで接種しますか?

ロタウイルスワクチンは種類によって回数は同じですが, スケジュールは似ていて, ワクチンを接種したら27日以上間隔をあけて次の接種を行います.

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一般的にはわかりやすいスケジュールで行われていることが多く
1回目: 生後2か月になったら接種 (上記参照)
2回目: 1回目の接種後4週の同じ曜日で接種
(3回目: 2回目の接種後4週の同じ曜日で接種 [ロタテックのみ]]
といった感じで行われているのではないでしょうか.


いつまでに接種する必要がありますか?

開始時期
主に安全性への配慮から, ロタリックスとロテタックはどちらも生後14週6日までに開始することが推奨されています. それ以降に開始した研究が行われていないことから安全性などのデータがなく, なんとも言えません.
日本小児科学会も原則として生後15週以降でのロタウイルスワクチン接種は推奨しないことを表明しています(*13).
従って, 生後14週6日までに開始できるようなスケジュールを考えておく必要があります.

終了時期
開始時期と同様に, 主に安全性への配慮からそれぞれいつまでに接種を完了すべきかという時期が設定されています. 具体的には以下の通りです.
・ロタリックス: 生後24週まで
・ロタテック: 生後32週まで
順調に接種が進めば問題となることはありませんが, もし開始したものの遅れてしまった場合には, この時期を意識してスケジュールを考える必要があるでしょう.

<参考>
*13 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. ロタウイルスワクチンの初回接種時期について(第2版)


どの程度費用がかかりますか?

定期接種の対象となっている児は自己負担なく接種可能です.
一方で残念ながら定期接種の対象とはなっていない児に関しては, 任意接種であるため自己負担があります. (一部の自治体では一部補助〜全額補助となっているところもあります)
費用は受ける医療施設によっても異なりますが, 概ね2万5000円から3万円程度(全部あわせて)で設定されています.


ロタウイルスワクチンと他のワクチンはどのような順番で接種するとよいですか?

ロタウイルスワクチンは他のワクチンと異なり飲ませて投与します.
そのため, 他の予防接種と同じに接種する場合には最初に接種するか最後に接種するかどちらかになることが多いと思われます.

接種する順番で大差はないと思われますが, 他の注射の予防接種の痛みという点で考えた場合, 最初にロタウイルスワクチンの投与を行なった方がわずかにいいかもしれません.

小さい子のワクチン接種の痛みの軽減に糖を飲ませる方法があります.
ロタウイルスワクチンには精製白糖が含まれており, これが注射の痛みを軽減させる可能性が示されています(*2).
このため注射の前の投与がいいかもしれません(研究ではスクロースを使用しています)

また, 逆に注射で泣いてしまって, 吐いてしまうことを懸念して最後にロタウイルスワクチンの投与を行った方がよいのでは, という意見もあります.
もちろん実際にどの程度吐きやすいかといったことはよくわかりません. ただ, そういった点を重視してワクチンの接種する順番を決めてもほとんど差はないと思われます(少なくとも重要な効果や安全性では差はない).

<参考>
*2 Taddio A, Flanders D, Weinberg E, et al. A randomized trial of rotavirus vaccine versus sucrose solution for vaccine injection pain. Vaccine 2015; 33(25): 2939-2943.


どのような効果がありますか

胃腸炎
ロタウイルスワクチンではロタウイルス胃腸炎に対する予防効果があることが多くの研究で示されています.

ロタウイルスワクチンの導入前後を比べた日本での研究では, 以下のような結果が示されました(*3).

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またロタウイルスワクチンの効果を分析した他の日本での研究では, 以下のような結果が示されました:(*4)
・ロタウイルス胃腸炎に対する効果: 約80%
・重症なロタウイルス胃腸炎に対する効果: 97.3%
(重症なロタウイルス胃腸炎: 点滴や入院を必要とした症例)

いずれの研究でも, 年齢が上昇するとワクチンの効果が徐々に低下するものの, しばらくは効果は続いていましたという結果が報告されています.

2020年に発表された, 世界中での様々な研究に総合的に分析した研究では, 日本のようなロタウイルスによる死亡率が低い国における効果は86%程度と報告されています(*14).

以上からロタウイルス胃腸炎そのものや重症化に対して予防効果はあると言えそうです.


けいれん性疾患
ロタウイルスワクチンではロタウイルスに関連する疾患のリスクも減らす可能性が示されています. そのうちの1つがロタウイルス胃腸炎によるけいれん性疾患に対する効果が挙げられます.

ロタウイルスワクチンの導入前後での5歳未満のけいれん性疾患の発生率を比べた米国の研究があります(*5). その研究では, ロタウイルスワクチンの導入後, けいれん性疾患による入院が減少していたことが示されました. このことからロタウイルスウイルスワクチンによってロタウイルスが原因のけいれん性疾患が減少した可能性が示唆されています.

またスペインでの研究でも, ロタウイルスワクチンの導入後にけいれん性疾患の減少が報告され, 同様の可能性が示唆されています(*6)

さらに胃腸炎に伴うけいれん性疾患として頻度の高いものに軽症胃腸炎関連けいれんがあります.
軽症胃腸炎関連けいれんを引き起こす原因としてもロタウイルスが多いことが知られていました.
しかし韓国での近年の報告では, ロタウイルスワクチン導入後ではノロウイルスが主要な原因であることが示されています(*7). この報告でもロタウイルスワクチンによりロタウイルスが原因の軽症胃腸炎関連けいれんが減少している可能性が示唆されています.

以上から, ロタウイルスワクチンはロタウイルス胃腸炎だけでなく, それに伴うけいれん性疾患のリスクも低下させる効果もあるかもしれません.

<参考>
*3  Asada K et al. Rotavirus vaccine and health-care utilization for rotavirus gastroenteritis in Tsu City, Japan. Western Pac Surveill Response J. 2016; 7(4): 28-36.
*4  Araki K et al. Effectiveness of monovalent and pentavalent rotavirus vaccines in Japanese children. Vaccine 2018; 36(34):5187-5193.
*5  Pringle KD, et al. Trends in Rate of Seizure-Associated Hospitalizations Among Children <5 Years Old Before and After Rotavirus Vaccine Introduction in the United States, 2000-2013. J Infect Dis 2018; 217(4): 581-588.
*6  Pardo-Seco et al. Impact of Rotavirus Vaccination on Childhood Hospitalization for Seizures. Pediatr Infect Dis J 2015; 34(7): 769-773.
*7  Norovirus in benign convulsions with mild gastroenteritis. Ital J Pediatr. 2016; 42(1): 94.
*14 Burnett E, Parashar UD, Tate JE. Real-world effectiveness of rotavirus vaccines, 2006-19: a literature review and meta-analysis. Lancet Glob Health 2020; 8(9): e1195-e1202.


安全性は?

ロタウイルスワクチンは基本的に安全です. 
少数ではありますが, 下痢や興奮しやすいなどといったことが副反応として報告されてはいますが, それらは安全性には大きな影響は与えなさそう.

またロタウイルスワクチンでは腸重積発症のリスクとなるか, ということについて研究が行われています.
これはロタリックスやロタテックよりも前に誕生したロタウイルスワクチンであるロタシールドが, 腸重積発症のリスクを若干高めること(11000人に1人程度)が判明したため撤退した経緯があるからです.

現在までの様々な研究によると, ごくわずかに腸重積発症のリスクを高めるかリスクは変わらない, と考えられています(*8, *9, *10).
特に初回接種後7日以内ではわずかにリスクが高まる可能性があることが指摘されており(*15), 日本でも初回接種後14日以内は腸重積の徴候には注意が必要であることは強調されています.
ただし近年, ワクチン接種した方が1歳までの腸重積のリスクを低下させ可能性があることを示す研究がいくつか報告されているようになってきており(*16, *17), 総合的にはロタウイルスワクチンは腸重積に対してもわずかに減らす効果があるかもしれません.

またロタウイルスワクチンにはウイルス以外にも様々な成分が含まれています.
これらの成分はとても微量ですが, ワクチンの作成や, 効果・安全性を確保するために添加されているものです. 
聞きなれないものも多いかもしれませんが, これらの成分によって何らかの有害なことが引き起こされたとする報告も現時点ではありません.
従って, これらの成分に関しては安全性には影響がないと考えられます.

<参考>
*8  Evaluation of the Intussusception Risk after Pentavalent Rotavirus Vaccination in Finnish Infants. PLoS One. 2016 Mar 7;11(3):e0144812
*9  Intussusception risk after rotavirus vaccination in U.S. infants. N Engl J Med 2014; 370(6): 503-512.
*10  Risk of intussusception following administration of a pentavalent rotavirus vaccine in US infants. JAMA. 2012; 307(6):598-604.
*15 Oberle D, Jenke AC, von Kries R, Mentzer D, Keller-Stanislawski B. Rotavirus vaccination: a risk factor for intussusception?. Bundesgesundheitsblatt Gesundheitsforschung Gesundheitsschutz. 2014; 57(2): 234-241.
*16 McGeoch LJ, Finn A, Marlow RD. Impact of rotavirus vaccination on intussusception hospital admissions in England. Vaccine 2020; 38(35): 5618-5626.
*17 Cho HK, Hwang SH, Nam HN, et al. Incidence of intussusception before and after the introduction of rotavirus vaccine in Korea. PLoS One 2020; 15(8): e0238185.

2種類のワクチンで違いはありますか?

ロタウイルス胃腸炎のワクチンは2種類あり, 医療機関によって受けられる種類が違います. 他の予防接種とはやや状況が違うため「どちらを受けた方がいいの?」と混乱してしまうかもしれません.
両者の違いについて, 特に重要な効果では直接両方を比べた研究はあまり多くありませんが, 現時点ではロタリックスとロタテックでは効果は同等と考えられています.

1つ研究をご紹介します. 効果のところで紹介した2014-2015年に行われた日本での研究です(*4).
ここではロタリックスとロタテックの両者で効果の比較が行われていますが, 両方ともロタウイルス胃腸炎に対する効果は約80%で同等でした.

その他の研究でもどちらのが方が効果的, ということを示された研究はありません.

また安全性に関しても両者は同等であり, 費用も同じくらいです.
従ってロタウイルスワクチンに関しては, ロタリックスとロタテックのどちらを選んでも大きな違いはなさそうですので, 受けやすい方が接種する方針でよいと思われます.


ちなみに両者は吐き戻し後の対応に関して添付文書上では違いがあります:
・ロタリックス: 接種直後にワクチンの大半を吐き出した場合は、改
めて本剤1.5mLを接種させることができる。
・ロタテック: 接種直後に本剤を吐き出した場合は、その回の追加接種は行
わないこと。〔臨床試験において検討が行われていない。〕
(いずれも添付文書から引用 [ロタリックス(*11), ロタテック(*12)]

ただし吐き戻したとしても基本的には十分な効果が得られるとされています. そういう理由もあり定期接種となってからは, 基本的には接種後の吐き戻しでも再接種は行わない(行う場合には自己負担あり)というルールになっていますので, 注意が必要です.

<参考文献>
*11  ロタリックス内用液 添付文書
*12  ロタテック内用液 添付文書


途中で違う種類に変更できますか?

途中で切り替えた場合の効果や安全性などについては確認されていません. 従って情報がないので何とも言えません.
従って, 1回目に接種したものと同じ種類のワクチンをその後も接種します.



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