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改札のデザインにみる性善説性悪説

この話をしたのはもう結構前、まだロンドンに住んでいた時だと思います。最近ふと思い出したのでnoteに書いてみようと思いました。

いつだったか日本に一時帰国している時に知り合いから、「ロンドンの地下鉄の改札ゲートは日本のものより反応が遅いよね」ということを言われました。

はて、本当にそうかな?と思い、違いを考えてみました。

言われてみるとたしかにゲートの開閉スピードは日本のものよりゆっくりしている気がします。しかし改札機そのものの反応速度が特別遅いという感じはしません。では何か他にその感覚の違いを生む要素があるのかなと思っていたら、ロンドンと日本とではゲートの待機状態が違いました。

NCとNO

NCとNOという言葉を聞いたことがあるでしょうか?電気部品のリレーやマイクロスイッチ、流体コントロールで使うソレノイドバルブなどを触ったことがある人は馴染みがあると思いますが、これはそのパーツのデフォルトの状態を示す言葉です。

NCとはNormally Closedの略で、デフォルトの状態ではそれが閉じていることを示しています。リレーやマイクロスイッチならば普段は接点が閉じていてアクティベイトすると接点が開くバージョンのことで、ソレノイドバルブの場合は普段はバルブが閉じているけど通電するとバルブが開くこともののことになります。

NOとはNormally Openの略なので、その名の通りNCとは逆の動きをするバージョンのことになります。リレーやマイクロスイッチならばアクティベイトして接点が閉じるもの、ソレノイドバルブなら通電するとバルブが閉じるもののことです。

もうお分かりかもしれませんが、ロンドンの改札はゲートがNCで、日本の改札はゲートがNOだったんです。

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ロンドンと日本の改札ゲート。ロンドンはNC、日本はNOになっている。

性善説性悪説

ロンドンの場合はゲートがNCなので、人が通る度にゲートが開いてまた閉じるという動作をします。かたや日本の場合はゲートがNOなので、なにかエラーがない限りはゲートは常に開いたままです。

そう、ロンドンのゲートの反応が特別遅いのではなくて日本のゲートがそもそも開いたままなのです。

ではなぜそもそもこうしたデザイン思想の違いが生まれるのだろうと考えると、もしかしたらそれは性善説と性悪説の違いではないかと思いました。

ロンドンのゲートデザインは、「人は意識的にしろ無意識的にしろエラーをするものだからその行動は信用出来ない」と言っている気がします。

かたや日本のゲートデザインは、「大多数の人はこちらが想定した範囲内の行動をとってくれるから心配ない」と言っている気がします。

これは僕の個人的な感覚なので、本当にこういった考えがそのデザインプロセスの裏にあったかは分かりません。

ただ僕がその知人に、「ロンドンのゲートデザインは性悪説から生まれていて日本のゲートデザインは性善説から生まれている。その違いがゲートの待機状態の違いを生んでいてそれによって反応速度の違いを感じているのでは?」という話をしたところとても面白がっていたので、まあこういう見立ても面白いかなと思いました。

デザイン思想を考えてみる

普段見たり触れたりしているものは必ず誰かがデザインや設計をしています。ふと気になったものに対して、その裏にいったいどんなデザイン思想があったのかと思いを巡らせてみると、けっこう楽しい思いつきがあったりします。

職業病的な観点なのかもしれないですが、こういう見方で街を歩いていると、道にあるいろんなオブジェクトがそれぞれ個性を語りかけてくるように思えてきてなんとなく楽しい気分になります。

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