見出し画像

レジを待つ間

中条あやみをトレースしたようなくっきりとした目鼻立ちに東洋的な美しさをたたえた女性が、自我の芽生えた幼子の選びそうな甘くてダサい服を着て、割引シールに目を奪われる人々でごった返す夕方のスーパーを歩いていた。彼女の周囲には青白い光が漂っているように見えた。本物の美人は光るのだと思った。その圧倒的な美しさは、店内放送の割れた音に彼女の耳へたどり着くことをすっかり忘れさせ、僕の頭に静かに落ちた。彼女は周囲の混雑を気にする素振りをひとつも見せず、堂々と、そして上品に店内を歩いていた。僕もそのとき忘れていた。彼女が右手にカゴを持っていることを。それがこの場にいるすべての人々と同様に、買い物という行為の途中であることを。その姿はまるで草原に舞うひとひらの羽毛を思わせた。僕は自分の買い物カゴに入れられたいくつかの総菜を卑しいとさえ思った。家に帰って三割引のシールが貼られたう巻きを食べながら、彼女の夕飯は何になったのだろうと考えた。う巻きはとてもうまかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?