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『極北』 マーセル・セロー/村上春樹 訳

小説をひとつ読み終えたとき、「こんなにもおもしろいものがあったのか」と驚嘆し、感動し、それを拙いながらも文字にし、誰かへ伝えたくなることがある。あるいは少し先の自分に、記録を残したくなる。僕は今までにあまり多くの小説を読んでこなかったから、けっこうな頻度でそういう機会に恵まれる。
若い頃にもっと本を読んでいればなあと思わなくもない。その後悔は、十代の僕がどう感じたのだろうという好奇心に起因する。けれど過ぎた時間はどうしようもない。なによりも、眼鏡が欠かせないとはいえ僕の目はまだまだ健康で、時折の休憩はいるものの集中力が持続する幸運に感謝すべきなのだろう。
という話を書いたのは何も気紛れではなく、きょう読み終えた一冊の小説が、現在進行形で健全に本を読めることへの感謝を呼び起こしたからだった。マーセル・セローの『極北』、めちゃくちゃおもしろかったです。僕は好きだったけれど、と留保することなく、人に薦めたい本だった。



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