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渡辺明名人が言う「不思議な勝ち」 藤井聡太竜王には珍しい負け方

第81期将棋名人戦七番勝負第3局は、渡辺明名人が藤井聡太竜王に勝利されました。
ここまで渡辺名人3勝、藤井竜王18勝と、対戦成績は大きく差がついていますが、現代の頂上決戦です。

対局は角換わり模様から、藤井竜王が△4四歩と角道を止める意表の展開に。
つい先日、AIでは角換わりは先手必勝という見解が出ていたのを想像していました。

藤井竜王が角換わりを拒否! と騒然となりましたが、千田翔太七段のTwitterやABEMA解説の遠山雄亮六段の解説では、むしろ渡辺名人が後手を雁木に誘導したとの見解。

特にABEMAの遠山六段の解説は、端的かつ明快でとても分かりやすかったです。

1日目の封じ手が終わって、評価値はやや藤井竜王有利。持ち時間も大差ありません。
まとめサイトではこんな記事が出ていました。

調べてみた
過去、藤井の2日制対局の封じ手時点で

①形勢は互角以上
②時間差は2時間以内

①と②の条件を満たした対局は21局で、結果は藤井の21戦全勝

逆に言うと、①と②のどちらかが崩れた対局では結果は9勝6敗と大苦戦してる

本局はまさに①と②を満たした対局です。

2日目は用事で外出していたため、中継を見れたのは△2七歩に▲同飛とした後でした。
つまり、形勢が渡辺名人に大きく振れた直後です。

何が起こったのか状況を把握するのに時間がかかりましたが、いつもの藤井竜王なら、ここから局面を複雑にする手を指して紛れを求めていくところです。

ところが本局では、あっさりというか淡白にというか、変化の少ない指し手が続き、最終盤も▲3三角が来る分かりやすい手順で渡辺名人の勝利となりました。

▲3三角の局面では渡辺名人が93分の大長考が話題となり、中継も大いに盛り上がったところですが、ご本人は冷静です。

「今日は2時間以上残していたから93分考えましたけど、残り1時間なら30分で指していた。30分は残さないと(本局は31分を残した)、その後で何かあった時に対応しにくくなるから。で、プロなら、何度も確認しての頓死ってそんなにないです。だから基本的には大丈夫だとは思っていたんですけど、同じ手順を5、6回も考えるので、最後は考えることもなくなりました。だから眺めていました」

朝日新聞「【詳報】渡辺明の93分 長考中によぎった9年前、羽生善治との記憶」

中継を見ていても、必死に読みを入れている様子ではなく、2021年の竜王戦第4局での豊島将之竜王(当時)の大長考とはだいぶ雰囲気が違いました。

一方の藤井竜王も、不利は自覚されていたでしょうが、前傾姿勢で読みを考えています。いつもの「がっくし」のように態度に出ることがありません。

結局、自玉が詰まないことを読み切った渡辺名人が▲3三角と踏み込み、ほどなく藤井竜王の投了となりました。

終局後、渡辺名人はTwitterで、「先手は手が狭くて間違えにくい、という不思議な勝ちではあったけど」と書かれています。
「不思議な勝ち」という表現が象徴的です。

藤井竜王は、ここまで見てきたとおり、いつもの負け方と異なる印象を受けました。

  • 1日目が終わって互角以上、時間差もない状況での負け

  • 局面を複雑にする手を指さない

  • 不利になっても態度に出さない

1点目については、少なくともAIの候補手では、そういう選択肢がなかったわけではありません。
特に、決め手となった▲3三角を誘発した△4五銀の局面は、事前に長考していたとはいえ、ノータイムでの着手でした。

局後のインタビューでは、
「やっぱり中終盤の読みが足りなかったかなと感じたので、そこは次局以降、修正できればと思います」
とコメントされています。

渡辺名人が1勝を返したこのシリーズ、第4局は1週間後の5月21、22日、
福岡県飯塚市の「麻生大浦荘」で指されます。


TOMOさんいつも画像をお借りしています。ありがとうございます。

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