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歌舞伎初心者の心の空白 中村勘三郎さんを偲んで

平成中村座姫路城公演の余韻から数日、5月30日は中村勘三郎さんの誕生日だと聞きました。
ご逝去から10年あまり、ご健在なら68歳になられていたそうです。


  • 中村勘九郎さんが大河ドラマ「いだてん」で金栗四三役だったこと

  • 中村七之助さんが映画「ラストサムライ」で明治天皇役だったこと

  • 中村扇雀さんが扇千景さんのご子息なこと(さらには四代目坂田藤十郎さんと扇千景さんがご夫婦なこと)

歌舞伎ファンの皆様は唖然とされるでしょうが、いずれも平成中村座姫路城公演を機に知ったことです。

これまで歌舞伎について何の知識もなかった私は、この公演からたくさんのことを学びました。

そして、ここ10年ほどの間に、歌舞伎界の屋台骨であった名優が若くして逝去されていたことを知りました。

十八代目中村勘三郎(2012年、57歳没)
十二代目市川團十郎(2013年、66歳没)
十代目坂東三津五郎(2015年、59歳没)

ご家族、関係者、ファンの方々の心痛を思うと言葉もありません。


この度の姫路城公演で、どれほどの感動と昂奮を体感することができたか。
それについては、別の記事に譲ります。


こんな初心者でも心を揺り動かされる平成中村座はすごい!

それは間違いのないことですが、無邪気なばかりではいられません。


中村勘三郎さんのことをまったく存じ上げないのです。


お元気なときの姿はメディアを通じても拝見した記憶がなく、少し検索すればわかることしか知らないのです。

するとどうなのかと言いますと…

姫路城公演初日の「父が見たら泣いて喜んだだろうな」のご挨拶も、
18か所の隠れ勘三郎も、
飲み物を購入するといただけた「勘三郎の目」のカップもシールも、
三十軒長屋に並ぶ祭絵「俺の孫」も、

勘三郎さんをよくご存じの方なら胸に響くであろうことが、その重みを、深さを、懐かしさを、受け取ることができないのです。

言葉にできないほど寂しいことです。

江戸時代の芝居小屋を再現した平成中村座の立ち上げ。
志半ばでこの世を去った無念と悲痛。
それを受け継いだ二人のご子息と、周囲の方々の軌跡。

これらをストーリーとしてしか理解することができない。
思いを分かち合うことができないのです。

どれほど愛されていたか、どれほど待ち望まれていたか、
同じ時代に同じ空気を吸った人にしか分からないものが、私の身中にはありません。

これから学ぶことはできますが、たとえ同じ映像を見ても、心に届くものがまるで違うはずです。

もちろん、悪いことばかりではないでしょう。
推理小説には「記憶を消してもう一度読みたい本」と言われる作品があり、知識がないからこそ楽しめる要素もあります。

今の勘九郎、七之助ご兄弟の世代を追えば、将来感じるものが多くあるはずです。
歌舞伎はこれからも長く長く続いていくでしょう。
観るのが遅すぎる、ということはないと信じています。


それでも…

歌舞伎の魅力に気付いたいま、お元気なときの勘三郎さんを知らないというのは、この上なく寂しいものなのです。




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