閉鎖病棟に入る(3)

同室の16歳の少年と仲良くなると、彼の友人たちとも親しくなった。隣室の17歳の少年。廊下を挟んだ部屋にいる、21歳の青年。年齢ははっきり覚えていないが、やはり20代の青年。彼らはいつも、わたしがいる部屋に集まってくる。閉鎖病棟は、することが少ない。週何度かの作業療法や、看護師に引率されての買い物があるとはいえ、基本的にはヒマである。彼らは修学旅行で旅館に泊まった子どもたちのようにじゃれ合い、時には喧嘩もした。

閉鎖病棟の窓は自分で開けることはできない。窓の外の景色は美しかった。わたしは夏至を過ぎて間もない頃、もう7時になろうかという時間、山の向うの残照を眺めていた。まだまだ外は明るかった。いつの間にか少年たちがわたしの横に顔をくっつけて窓外を眺めている。
「何を眺めてるんすか?」
「夕焼けがきれいだなあと思って」
そこで彼らは止まる。あらためて外を眺めている。
「きれい...って、どんな感じですか?」
そこでわたしは気づいた。彼らは「きれい」という言葉を知らないのだ。いや、正確には、辞書に書いてある「きれい」の意味を知ってはいるが、それがどんな体験なのかを、味わったことがないのである。

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