分からないことについて

他人のことは分からない、とくにその痛みや苦しみについては一切分かり得ない。でも、それだったら、わたしはなんで数日おき、場合によっては連日、だれかの苦悩に耳を傾けているのだろう。一切分からないというのに。

だが注意しなければならない。「分かる」にはかなり広い意味がある。たとえば「分かる」に似た言葉として「知る」があるが、「知る」を表す西欧の言語のなかには、性的な関係をもって相手の体のすみずみまで知る、という意味さえ持つものもある。だがその場合にも相手の内心までは知り得ないわけだ。性交のとちゅう、ほんとうに相手が自分のことだけ考えているのか?....あまり考えたくはない問いであろう。

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