閉鎖病棟に入る(5)

言葉を喪い、唸っているおじさんの斜め前に、車椅子の青年が虚空を眺めている。彼が大きな声を上げるので、剛腕の男性看護師がその頭を掴み、壁にぶつけていた。わたしはとくに義憤に駆られてでもなく、診察の雑談のなかでそのことを主治医に話した。翌日から暴力はぱったり止み、看護師はわたしに媚びるような態度をとるようになった。どうやら主治医がそれを上司に報告し、院内で研修が開かれたらしい。わたしとしては、彼らから媚びられるほうが敵意を感じてつらかった。内心では鬱陶しいインテリ密告野郎とでも思っているだろうなと。

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