閉鎖病棟に入る(9)

自分の投げた槍が的を外していることを確認するだけでは、まだ足りない。投げ方を吟味する必要がある。陸上競技で槍投げをする選手は、つねに自分のフォームをチェックし続けているはずである。余計な力が入ったり、不要な癖がついたりしてはいないか。フォームに不備が見つかれば、今度はそれを取り除くための練習を重ねるだろう。医師がわたしに要求していた「『ありのままのわたし』という願望それ自体を問いに付せ」とは、これである。わたしのイメージする「ありのままのわたし」というあれこれの理想像は、おそらくどれも的外れである。それらの理想像一つひとつを吟味していっても、時間ばかりかかって生産性がない。そうではなく、そのような願望を投影してしまう、その投影のしくみ自体に潜む、自分の思考の癖を問うてみなさい────医師はわたしに、そう語りかけたのである。

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