五行詩 七篇

「くず湯」
くず湯の気泡をすする
恥ずかしいことがずっと
つかず離れずの場所にある
耳栓のなかはいつも
雪を踏むような音がしていた

「ぬかるみ」
熱が結びなおす雪の結晶群
そのぬかるみできみの
甘くぬかるんだ夢をみてごらん
素足にまつわる蛭の群れが
きみと凍土をつなぐ回路だ

「ちまめ」
あの辺りにぼんやりと光る果実は
きみの足いっぱいにはびこる
血豆に似てないか
纒足からはみ出した歩行を今
さびしくなるほど食べたいと思う

「かげろう」
橋のうえに陽炎があり
誰もが境をなくすような
蜂蜜状の、卵白状の門があり
ほどかれた身体が
放射状にも橋を建て始める


「ビー玉」
そのビー玉に耳をあてる
それは深い水色の虹彩のようで
ひびの入った地球儀のようで
そこから葉擦れとまごう口笛が
ぼくらの脈を昇ってくる


「さんらん」
さんらんまえ駅さんらんまえ駅
その岩の硬さに彼らは
二匹の最後の鱗をなする
盲点になるほど純度を高めた光だ
何もない。終点には何も見えない


「シャワーズ」
螺鈿はなやぐ庭で
くしゃみをする少女の
しぼんだ肺へ流れ込む
足りてほしかったものたちが
いま、シャワーのように



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