詩:おりん

大八車に、緑や白の野菜たち。
道は、区画整理の前、大きな
石などは、多少は隅にはじかれて、
小さくなった人間や、赤児の
眼差しを吸っている。
目も多少、石になっている。

色は、遡るたびに灰色になる。
色の通行止めがあり、私はそこで
灰色の町と、スーパーの陳列棚を
行きつ戻りつする。
色は、そこに落っこちてしまう。

祖父は、戦地から戻り、大八車を
引いている。顔は、一枚しかない。
たいそう立派に飾られた聖域に、
線香の香りと、大きなマッチ箱がある。
祖父の白黒の写真の脇には、
みかんやパイナップルの缶詰があり、
仏壇はガラス窓、の奥に何か
多分ありがたい像が立っていた、が、
思い出せるのは、安っぽい缶詰、
線香の香り、手のひらぐらいの丸い
座布団に鎮座した、シンギングボウルの、
音。おとぉぉん おとぉぉん

祖父が大八車を引いている。
緑や白や赤の野菜が載っている。
色はスーパーの陳列棚から
かろうじて拾ってきたが、
野菜の形はでこぼこで、
泥は付いたまま、乾いて風に流されれば
小さくなった人間や、赤児の目に
砂や、小さな虫や、菌が入っただろう。
顔は一枚しかない。
その顔の、歳も知らない。
七三分けで、パイナップルの
安っぽくて甘い缶詰を食べたい。

整地され、水道やガスの管が通った。
それらは灰色だったが、
スーパーの陳列棚から拾ってきた。
だから皮を剥けない。
道の皮をそれ以上剥けない。おとぉぉん
この先は通行止めです。灰色です。
揺れた揺れた。ひびが入った道路から
道路の裏のもっと奥から、おとぉん。
とシンギングボウルが落ちた。
写真は、缶詰は薄いガラス窓を破り、
ありがたい像がうつ伏せです。
は失意のままに、がんばっぺ、戻すために
均される、小さくなった人間や、
赤児の目はまだ白黒い、この顔は
どこから拾ってきた?

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