詩:スリッパ

居間の座卓の下から
アンコウが覗いている
ちょうど足の大きさの
私に履けそうなアンコウが二匹
こちらを見ている

それぞれにタコが乗っている
カラストンビで貝がらを咀嚼する 音
私は海底の砂を背中に感じる
ああ 彼らの腸のなかにいる私だ
貝がらの、螺鈿の、寝返りを打つたびに
色を変える光がある

うなずらにぼんやりたゆたう月光
片栗粉のように落ちてくる
重たいものは 無数の
植物と動物のあいだにあるもので
ぷらんくとん
などと呼ばれた食べ物だったか
口を大きくあけて息を吸うように
海水も、砂も、砕かれた貝がらも
飲み込むように 
そのとき、鳥の鳴き声と
誰かの電話の声も聞こえた

アンコウはお互いに
髪型を変えながら遊んでいる
ひとりは七三分け
ひとりはオールバック
タコが飽きて あるいは別の食べ物を
見つけたカラストンビが
暗い海に紛れるように飛び立つと
つるっぱげになる
いや
彼らには"ぬるっぱげ"が正しく
アンコウは身じろぎもせず
もう足の温度も冷めてしまっていた

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