詩:絵図にひそむように

あめつちのはじめのとき
(天地初發之時…)
読んだこともない一節は
だれの元からここへ来たのか
思い出そうするとき
いつも雲合いは らでんで溢れている

お前は また嘔吐をしている
あまずっぱい黄桃を
例えば虚空に展げるように
嘔吐をしているお前の
ひそやかな声が
舌根のさかいから 現れている
あまずっぱい反芻を
味蕾にあそばせて また
しんみつに還す
繁茂する舌苔は
そうしてゆっくり 果物を味わっている
ひとつの囚われからの往来があった
 こうくう を
なぜだろう胸痛になぞらえて
崇めている
きんの粧いだ

お前は また放蕩をする
納豆状のくさりを延ばしながら
よたよたと一歩ずつ
幻影をすりぬけて
いたるところに跫音はあった
母の美しい 発狂絵図が
踊るような 読経絵図が
いたるところに また
嘔吐はあった
そうして一歩ずつ
現れをふりきって
いつも
雲合いは らでんで溢れている
 きょうもん にも
 こうもん にも蓋をして
お前はいつも
できるだけこぼさないような
かたちをしている

応答する
がらん堂にかざり立てた
きん色の黄桃絵図に
お前はまた食欲を澄ませている
それは
 こうくう 地図にも見える
こそいで ひとひらの色を
舌の原へ ひそませる
かきまぜ もうひと色を
舌根のうらへ なじませる
それは豆腐のでき方にも
嘔吐のでき方にも 似ている
浮いてくるものを
口さみしさのまま繰り返す

(はじめにことばがあった…)
絡みつくこの一節も 耳でしか知らない
それがお前の
孤島のような もの  だったろうか
 くだ まく もの  だったろうか
 管  膜  母の  あまい果物は
どの一節だろうか
 はっこう の源へ還ってしまった

思い出せるかい あめつち
お前だって
いち面にくらむ らでんのなかだ
幸福絵図だ

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