詩:誕生日求ム

指の、ふしから先、に血が寄る。
積まれ、しばられた本たちの、重み。
紙塚かみづかを今作らんとする私の、
関節が増えそうなほど圧縮された、
指の、赤紫色の窪地に、
一人分の笹舟があり、
数百人分が、ぬら、と溶紙炉ようしろに向かう、
川。

欲しいものは、
誕生日になったら買ってあげる、と言った。
私の額に〈済〉のはんこが、
誕生日をえた証明、がある。
例えば排泄の、例えば、過摂取の、
例えば今、
数冊の本たちを十字にしばる、
辻にある紙塚との往復をする、
圧縮された記憶をしばる、
例えば今、唇の上が塩からい、

雑多な音楽も、雑多な本たちも、
生きるだけの意味が無いように思え、
さっぱりと棄ててしまった。
棚板に埃の縁取りがあり、
裏表紙のきれっぱしが、それだけが、
アスファルトに現実感を舞う、
つむじ風。

腹ごもりがいる。
その辻で、誕生日をしようとしている。
紙塚だった場所が、むんわりとする、
生ごみの臭いと、烏の痕跡が、
生活の内臓の、破れと、散乱がある。
あの、もし。
そんな呼びかけが、かえって二十一世紀然、として、
生まれそうです、と言うので、
私は救急車を呼んでやる。ついでに、
ご一緒させてください、誕生日になりたいのです、
と言った。

なるべく逆子にならぬよう、頭から、紙縒りこよりになる。
孔ぼこだらけの軽い肉体は、
この細いねじれ、は、
麻紐のきれっぱし、か。
ふしだらけの指、か。
溶紙炉への媒介車が、
ソーセージのように詰め込んだ、
んん、とする臭い、は、
れた肉からぼたぼた落ちた、川にもなれぬ、
たまり。

腹ごもりに宿る生命の、
ほんとうの性別など、
まだ誰も知らないのだから、
入口ひとつ、出口もひとつ。
当腹ごもりは混浴にございます。
弊腹ごもりは未人みじんふねにございます。
烏が、電線から、腹へ、窺うように、
また、電線へ。それで、いっとき啼いた。
たまり、が乾き、サイレンが止む頃、
私は今日、
知らない誕生日になるための、
笹舟に、乗る。

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