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詩:口がいっぱいだ

某誌にて選外佳作を頂いた詩です。


たんこぶがいっぱいだ
毛穴ばっかり膨らんで
口がいっぱいなのに わたしの
頭がぼこぼこで言葉をじょうぶに結べない
あり余った枝毛の先っぽには
あらゆる埃が光源のような
白い部屋
思い返してしまったろう?
きみはときどき
すぐに恥ずかしそうな顔をした

花小金井駅南口 駅にだって
口がいくつもあるんだね
噂話もいっぱいだ
ロータリーに結ばれた桜並木も
花の炎症がまだ残っているみたい
あちこちで口がいっぱいだ わたしの
ひと穴ひと穴に
鳥の巣があるみたい
いっそ鳥居なんて漆で固めたいよ
そう
きみの口元はすぐ
思い返しに乗っ取られてしまうね

口がいっぱいで
口の中にも口がいっぱいで
「回」の中はもう塗りつぶされて
切り株の穴
さかさに喉仏が張っているの?
枝毛も根っこも
地中の天に向かっているの?
そう
並木道のわたし達
鳥居をくぐって門をくぐって
手紙に砥石をかけるようだ
鳥居をくぐり

円錐のロータリーは終わりに差しかかり
もめんの太陽が継ぎ目をひらいている
その向こうの白い高原は
ひっそりとして
おおきな牛がのびていて
胃袋がいっぱいで
溶けたものいっぱいで
わたし達も
思うかぎりの拙い顔をして

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