詩:カワタレドキの、また、カタワレドキの


 ぬ、ちゃり、
  と、わたし、は、おまえ、は、
 冷たさ、を、感じている、船

かはたれどき、また、
ロータリーを一周するとき、
うっすら上昇していたのだ。足が、車輪が。
影、も一緒に上昇していたものだから、
気がつかなかった。
〈止まれ〉の標識で、百年も見ていれば、
影だけが積み上がってゆくのが、わかる。
車椅子の老いびとの、
ズボンのなかの伽藍堂を見ていれば。
〈止まれ〉の印刷ずれを見ていれば。

かはたれどき、
冬の冴えざえとした灯りが、針が、
ロータリーを周りゆく者を、
飾りつけ合い、
先端をいからせ合い、
また、ためらいなく刺している。
影踏みにあそぶ者を、
幾人、さらに幾人と串に刺している。
影、は歯ごたえのない、
カワ、タレ、として皿に盛られている。

ごらん、ロータリーは煙いだろう。
 さむいだろう?
煙のなか、船が、ぐにゃぐにゃ揺れている。
 ほら、足がかるいだろう?
    ––––重い、のかい? 

 ぬ、ちゃり、と、ねばるここち、影、は、
もう、くるぶし、を、覆うまで、きている、
 わたし、は、おまえ、は、船底、の、
冷たさ、を、感じて、いる、はだし、の、
 足、足です、いたんだ、靴、靴、の、
片っぽ、は、頭の上、片っぽ、は、指紋、
 べたべたの、皿の上、それでもきみ、は、
あたらしい、はじめましてと、顔つきで、
 カタ、ワレ、
 かたわれどきの、これまさに沈殿と、
それ上澄み、とはいえ混濁と、そんな風に、
あなた、は『呼ばせない!』のかい? 
ぼくらは、『呼びたい!!』んだろう?
                
––––〈止まれ〉の標識は、朽ちていた––––

ごらん
青あおとした海だよ
那由多の数だけ
ロータリーがまわったんだ
那由多の影がつみ上がって
ほら
老いびとも
カワごと海になっているよ

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