詩:おりんが鳴りやまず

ふぉぉぉん と
また鼓膜が震えている
おりんの音に波打ちながら
線香のにおいが
いつも灰いろの祖父に集まっていく
僕は 緑いろのじゅわ、とあまい
缶詰が食べたかった

白黒写真のなか
戦地からもどってきた祖父は
大八車で野菜を売っている
路らしくなってきた そのみちで
はずむ車輪に埃がまう
赤子の父は
目を大きくして じっとしていた
写真は濾紙のようにに
いろをこちらへ留めてしまうから
白黒になってさかのぼる街は
いつも灰いろで
埃っぽい

金いろメッキのそこは
ありがたい像がおわす 聖域みたいだ
ガラスの窓はくもっていて
線香は灰のまま傾いている
おおきなマッチばこ すべすべのやすり
パイナップル
もも 
みかん が
緑いろであまそうだ
えらそうに鎮座してるくせに
おりんはいつも少し汚れていて
かおが一枚だから
いつも少し おこっていて

その日

狂おしく

揺れて

灰いろの街の皮は
それ以上剥けないだろう
灰いろのその先は
空白が充満してる缶詰だから
それ以上ふくらんだら、はれつして
はれつしたら
この安寧の路から
戦地のにおいが吹き出すだろう
ありがたい像はうつ伏せで
ふぉん。
とおりんが落ちていた

また
鼓膜が震える
おかえり
ほら お父さんあれ
まいにちやってるの
かべ、ひびだらけになっちゃった

また震える
ふぉぉぉん と
震える
安寧でならすようにモルタルを埋める
父の大きな目には
亀裂がはしっている

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望星2024.4月号で選外佳作になったものです。
タイトル、本文を少し修正しました。

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