詩:MAXコーヒー(改)

昨日アップしたものを抜本的に書き換えました。お暇でしたら読んでみてください。

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 この吊り革が、ここ、と、あそこをつなぐのを決して信じない、という風に足踏みをしている。ポケットに、甘ったるいと評判の缶コーヒーをねじ込んでいた。
 春が花粉に遮られて、くもっている私、の前で足踏みをし、あなたは甲高い声で、ンハ、アフ、と笑っている。いたのだったか。
 慣性に逆らえずに、私の靴を踏んでしまう。スミマセネー、アタッチッテ、と言うあなたを、ただ頷くことでしか迎えられないことが悲しい。慣性に逆らえない、ことからのただの頷きが、春よりも悲しい。
 マスクを透して白く弾ける声が、車内を白む。私とあなたは、その場の幽霊だった。ンフ、フフ、の出どころに耳を盗られて、視点たちは宙空をさまよう。巣箱のなかの蜂の群れのようだった。
 『快速電車と待ち合わせいたします』が、解く、ほぐすように幾人か、すう、と去っていく。出ていった分、車内に色が、音が、においが、隙間が戻ってくる。隙間に花粉がなだれ込む。
 蜂はここでは何も運ばないのに、足踏みする女王を、誰もここには咲かせないのに、花粉はめしべを探すように、目の粘膜の奥に触手を伸ばす。涙で流れてしまわないように、踏ん張っている。
 くしゃみが聞こえた。
 ポケットから取り出した、白いタオルで目もとを拭うあなたを見る。顔の四分の三が白くなる。片目で私を強く見ている。涙目で私を強く見ている。視線に乗ってきた「うつり」にやられた。
 ンハハ、とやっと笑ったように、私に向かってピースをする。やられて私もピースをする。あなたの慣性が、隙間が入ってくるようだった。ピースが近づいてきて、私たちはE.T.のように二本ずつの指を合わせた。足踏みを止めたこと。それが少し、信じられた。
 電車を降りるとき、サヨナラ、と言った。私もそう頷いた。
 私の駅で、E.T.になったまま電車を降りる。座席には、ひと駅分の幽霊を置いてきた。(ピースの指が柔らかかった)
 MAXコーヒーの色で、電車は動き始める

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昨日アップしたものが少し恥ずかしいものだったので、自分の記憶をこれで上書きします。あとからもう少し抽象化して書き直す気もしますが、一旦これでMAXコーヒーからは離れます。

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