見出し画像

夢詠6



〈近接類同相〉

野良なれど我が物顔の「ウチの猫」

蒸し風呂を背広で泳ぐ夕立後

終電を待ち蒸されたり三番線

湿気忌む妻は窓閉めエアコン派

ほろ酔ひの一人祭りの夏夜かな

息子には息子の思ひありと知れども

子のレポートに口出し過ぎと妻怒る

メルカリで妻に古書を買つてもらふ

姪が児を宿しけりとや百日紅

休日にあちこち修繕書も読めず

老ひ兆す視界に糸くづ稲妻も

健診も終へぬ久しき冷やし酒

老ひ兆す見たしと思ふ孫の顔

葦荻も穂を開きけり法師蝉

接種後に妻は伏せをり栗届く
(2021.9)

気をつけて秋雨娘を送り出す

颱風も近きに外科へ義母乗せて

木犀のゆふべ網戸に蜻蛉をり

秋の夜半猫と旅する吉夢なり

木犀のゆふべの庭に佇めり

夫々のスマホに向かふ食後かな

疫病禍過去となりしか車内混む
(2021.11)

お笑ひとジャニーズばかりのレコーダー

蒼き路地妖しと見上ぐまろき月

医者の顔浮かぶもまたや燗二合

冬に入る裏路地に灯は戻りけり
(2021.11)

客引きも雑踏も裸木の下

舗道行く欅の落ち葉踏むばかり

帰途にあり予報はこの後雨と言ふ

伝へ聞く幼馴染の神隠し


〈異和境界相〉

ああまたか…
谷土松田と
猫に言ふ

何処にか
着地せんとて
何処ある

寂寞から
淫へと
強迫の形態

黄昏の
沼辺彷徨ふ
宿痾なり

雨降らば
雨野流離ふ
宿痾なり

颱風も
雪も四駆で
彷徨す

子は親の
鏡となりて
道を逸る

蛙の子
蛙となりて
道外る

憂き夕に
野の草の呼ぶ
宿世なり

谷間にて
闇に迷ひて
沈黙す

橋上に
侵襲者居り
行き惑ふ

プラごみに
〈ゆふべ〉の遺伝子
傷つきぬ

酔ひ覚めて
紅葉貼りつく
雨後の路地

身体(からだ)との
折り合ひ悪し
魂(たま)彷徨ふ

身体の
土気色にて
魂彷徨ふ

なんもかも
わからなくなり
神隠し

抑鬱の
蒼き沼辺の
木枯らしや

リア王の嘆き
オィディプスの
嘆き

地下室の手記
映しこむ
屋根裏に

かかるとき
如何にすべきと
問ひ続く

周りみな
真暗になり
神隠し

凍土溶け
解き放たるる
夢魔の息

弱々し
十一月の
午後の陽の

知るほどに
病根深し
落ち葉風

曇天に
病める郷愁
写像せり

弱音吐く
なんと弱きか
我が心

象徴に
淫し観念を
配合す

占ひ師
夢にてわが
運を笑ふ

孤立せる
千年王国
神隠し


〈固有象徴相〉

捨て置けず
猫を拾ひし
幼き日

生あれば
野良の三毛にも
暮らしあり

生あらば
そこに暮らしの
あり続く

逡巡し
選択しまた
逡巡す

選択し
後悔しまた
選択す

陽の注ぐ
堤防ありぬ
藪の向かう

冥闇の
森にひとすぢ
滋味の川

境界と異和が
時の
型を産む

皇国の
取水の堰を
みな開けよ

一隅の
涸れし水路に
水滲む

繕はれ
虚構化されし
顔が落つ

寂寞から
写像へ
継起の形態

この暗き
藪抜けて行け
堤防へ

橋上に
猫生まれ
虎纏ひ付く

渡るべき
橋ここにあり
黒き河

河隔つ
汝が受苦此岸の
夢に抱く

パチンコ屋
夢に更地と
なりにけり

北側の
部屋意外なる
陽射しあり

魔物棲む
森へ秘薬を
皇子発つ

異和のなき
楽土へ、山へ。
神隠し


〈遠隔類同相〉

彷徨と
帰還の夢や
神隠し

夢統べる
人形使ひの
技畏る

蜜柑の黄
飢餓と非難に
耐へし果て

血管に
潅木の根の
密に張り

日照りでも
驟雨でも川の
穏やかさ

水神の
社に祖霊の
労苦聴く

水神の
社に祖霊の
祈り聴く

汝が岸へ
橋は架かれり
言葉なき

無力なる
人ら護れと
降誕祭

夕色に
柿熟れ天に
返礼す

葦殖えて
枯れて天に
返礼す

ブラウスの
ビンと胸張る
げに眩し

句を連ね
夢に倣ひて
時刻む

木橋にて
子ら遊びをり
夢のうち

会はずとも
夕べの沼に
出会ひけり

次からは
うまくやるさと
猫に言ふ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?