夢詠2:夢の倫理

書かぬなら
カフカ忽ち
砂に散らん

✴︎

夢なるは
冥府下りの
英雄の闘い

✴︎

土間は凍つ
夢の語りに
暖とりぬ

✴︎

わずかなる
一行、時に
人救う

✴︎

落ち武者や
藪払い、ただ
落ち延びよ

✴︎

曾祖父の
ごとき棕櫚伐る
風通る

✴︎

目覚むれば
何処も濁世と
覚えたり

✴︎

敗残の
雨でもペダル
漕ぐ寒夜

✴︎

タイヤ替え
ワイパー替えつ
泥悪路

✴︎

名城も
史跡も無き我が
古き原

✴︎

雑踏の囚徒に
贈与の
希望あり

✴︎

椿落つ
漲る紅は
紅のまま

✴︎

町老いぬ
されど路傍の
桃躑躅

✴︎

落人や
黙して土を
犂いており

✴︎

菜の花の、
蒲公英の黄よ!
川は濁れど

✴︎

黄泉に待ち
市井に黙し
夢に聴く

✴︎

詠み書けば
病み人こその
営為なれ

✴︎

夢。
夜毎の、擬死再生の
儀式なり

✴︎

御霊には
珠奉れ
凪とならん

✴︎

水、魚
解凍してゆく
夢の街

✴︎

夢の街
夜更の工事に
終わりなし

✴︎

枯れ枝に
紅い椿が
灯る夢

✴︎

干上がりし
川底、夢で
歩きおり

✴︎

ペダル漕ぐ
堤防工事の
夢の街

✴︎

葦原に
潜み、落武者
夜を待てよ

✴︎

尾長鳴き
老猫眠り
鮒は待つ

✴︎

陽の弱り
鬼妖に
酒をつげ

✴︎

海霧に
囚徒の島への
船出待つ

✴︎

分極化深まり
贈与
熱増す

✴︎

構造が
眠りと目覚めの
境界を跨ぐ

✴︎

ビル影の
風集め
夢に束ねん

✴︎

我黙し
夢に写像す
汝が苛酷
(故・吉本隆明さんに)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?