花組『哀しみのコルドバ/Cool Beast!』配信観劇 ゆる感想

今日、『哀しみのコルドバ』の配信を観ました。

華優希さんでヅカ沼に沈んだ身としては、見ることに対する気持ちのハードルが異常に高かったこの演目。チケット戦線にも参加せず、配信すらもどうしようかギリまで悩んでおりました。が、いざ見てみたら、題材がいちゃラブコメじゃなかったのもあってか、「ああ、宝塚って新陳代謝していくんだな、こうやって変わっていくのだな」としみじみと思うよな次第。

ということで、薄らぼんやりとした感想。ネタバレしています。


『哀しみのコルドバ』、まったく共感できなかった『マノン』同様、若さゆえの無謀と暴走、他者へのまなざしを失した結果の、ある意味で自業自得の悲劇。自らの恋にまっしぐらに夢中になり、周囲への愛を置き忘れた人たち。そうなる原因に親世代が大きく関わるにせよ、それ以外の選択をしていく彼らに同情することが難しい。最後の事故に見せかけた自死も、結果、守られたのはエバを守りたい、という自身の心だけだなぁ、と見えてしまう印象でした。独善的な悲しさと美しさ。

アンフェリータちゃん、結婚する前にわかって良かったね!もっとあなた達親子のように他者を思いやれる人はちゃんといるはずだから、そういう人と結婚してね……! などという考えに支配され、柚香さんの演じるお役に問答無用に恋に落とされる感じがなかったなぁ、などと反芻中。

美しい、見事、でも他人事感。誰だあの服着せたのは!けしからん!いいぞ!相変わらずマントが生きている!!などと時代性と設定による美を堪能しつつも、心は主役から遠く離れていく感じ。抑制の中にも恋と情熱が見え、それでも激高することなく最善であろうとするロメロの方にまだ共感を覚えられる感じがするほどに。

ある意味で「宝塚らしさ」の演出がわたしには共感できにくいのかも、とも考え中。『ダル・レークの恋』『マノン』に続く主人公たちの生き方に共感ができないシリーズなのだけれど、思えばこれらは名作再演作ばかり。ロミジュリも、破滅的な恋だからこその美、という点で同じだ。救いを求めてしまいがちなわたしには、その役柄との心の距離が凄まじい。

ただ、物語としての構造は本当に美しかった。エリオとロメロの対比。エリオとビセントとの対比。エバとアンフェリータとの対比。いずれもが自然にある感じが本当に美しかったです。


『Cool Beast!』も、もっと思うところが出てくるかしら、つい目をそらしちゃうかしら、などとも想像しておりましたが、全くそうはなりませんでした。

ひとつには配信だったのも大きそうに思います。カメラの切り取り方が、例えばテラ・インコニタやトリスティア・ノクテムが柚香専用カメラ、みたいな画角が多かったので。ちょいちょいまどちがフレームアウトしてしまい、花を散らすシーンも入らなかったくらい。なので華さんの不在を物理的に感じる暇があまりなかったからじゃないか、疑惑。

そして瀬戸さんや、今回不在の水美さん。こちらについては若手がフレッシュに踊ってる!感が強くて、なんかスルっと見られてしまった感。表現しているものを全く変えてきていて、違うモノを見ている感が大きかった。

トータルでどちらが好みと言えば(演者への思い入れをなるべくおいてみたとしても)大劇場版になるのだけれど、でも全ツ版もこれはこれでアリだなぁ、という感じ。大劇場こそが当て書きだったからこそ、この差は生まれて当然だろうなぁ、とも思います。あくまで個人的な好みの話です。



柚香さんは本当に「役として生きる」ということに抜きんでていらっしゃるな、と改めて思う。エリオには全く共感できなかったけれど、エリオの生き方・生きざまはそれでも伝わってくる感じ。エリオとして自然に劇中にあり、そして感情を揺らし、感情が言葉になり歌になり踊りになる。「ミュージカル、なんで急に歌ったり踊ったりするん??」という感想を抱きがち勢だったわたしがここまで宝塚にハマれたのは、この柚香さん(と華さん)の在り方が大きかった。その張り詰めた感情の発露としての歌と踊りに胸をつかまれる。

エリオとしてだけでなく、ショーの中でくるくると切り替わるお役であっても、一貫してそこに「生きている」感が凄いなぁ、と思う。それらは緻密な計算があった上での「表現」なのだろうけれど、目を惹くスター性と共に、凄い武器をお持ちだなぁ、と思う。


星風さん、は、特にショーでの動き、手先足先の滑らかさはさすがだな、という印象。ショーのスカート丈が華さんより短くなっているの、それを見せたいという演出側観点ですかね?などと妄想。柚香さんとのダンスでの掛け合い感は、「ああ、まったくもって違うコンビだな!」という印象でストンと落ちました。あとメイク、変わりましたよね?花組らしい感じなんでしょうか。

真風さん・潤花さんコンビ、正直、プレお披露目の外箱では自分的にはあんまりしっくり来なかったのですが、今の大劇場のショーでバチコンとピントが合った気がしています。ので、次回の大劇場での花組公演で、あるいはトップコンビに対するふわっとした印象が大きく変わるのかもしれないなぁ、と、今から楽しみにしておこうと思います。


お芝居では音さんの抜きんでたお声が十分に堪能できて良かったです。声の美しさ、発声の美しさ、そして歌声の美しさ。どれをとっても圧倒的で、本当に美しい。『銀ちゃんの恋』を演じる音さんも観たかった気がする、と思っていたのですが、いや、アンフェリータは音さんがいいので、やっぱりこのままで。でも次ははいからさんの環のような、恋を自分でつかみに行くお役が見たいです。悲恋を歌う彼女の声は哀しみを湛えて美しいのだけれど、幸せに満ちている歌も聞かせてほしい……!


あとはひとほのに視線がロックオン。柚香さんのTHE☆スターオーラの横に二人が並ぶ姿は、控えめにいっても最強でした。それぞれに方向性の違う美の暴力。はぁ、絵が強い。特にショーでのお二人の華やかさが楽しくて、現地観劇の際にはオペラ泥棒になるんだろうなぁ、と予想してはうれしいため息です。


その上、芝居力でブン殴ってきた水美銀ちゃんチームが合流してくるんだよなぁ。楽しみでしかないです。

そして、楽しみでしかない、と思えるようになって良かった。今日の配信、見て良かったです。

どっとはらい。