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どうかこの物語が、あなただけのものでありますように

住野よる 『腹を割ったら血が出るだけさ』初読


うっかり作者最高傑作作り上げてて凄い。住野さんの作品で一番好きだった。今までは『か「」く「」し「」ご「」と「。』とか『また、同じ夢を見ていた』とかも好きだったけどこれがダントツで好きになった。
住野さん、膵臓で馬鹿売れして、しかもそれがデビュー作だったから多分苦しいだろうな〜ってずっと思ってたんだけどそんなの屁でもないくらい新作が良かった。

物語を芯にして、物語に生きる奴等を自分と重ねてギャップに苦しめられて、って話で
人間関係がめちゃくちゃ打算的なところとか何回もフレーズで繰り返される『そういう自分の感情に、死にたいと思った』って言葉とか、始まった瞬間からもしかしなくてもこれって己ですか??って感じでキモすぎた。(いい意味) 全部自分を見てるみたいでひたすらに自己嫌悪と軽蔑と嫉妬をごちゃごちゃにしながら。

物語をある意味逃げ場として生きてる人にとって"自分が物語の登場人物じゃない"なんて分かりきってることで、でも事実は小説より奇なりって言うし万が一の可能性に賭けてるんだけど、それを"あい"に、よりにもよってあいに「お前は別人だよ」って言われる可哀想さよ。哀れで、でも結局は自分だから恐ろしいくらい同情したね。 まあ私も小野不由美の魔性の子で同じ体験したから死ぬほど分かるんですけど。その気持ち。自分が物語に生きているわけではないことを突きつけられる瞬間って、ずっと一緒にいた親友に突き放される感覚というか どこで生きたらいいか分からなくなるよね。
でも住野先生は小野主上みたいにスパルタじゃないからちゃんと「だれも主人公なんかじゃない」って、誰も主人公ではないし、だから自分だけの物語が紡げて、誰かは誰かの物語に生きてるって提示してくれるの優しくて好き。 小野主上は「ハッお前はお前の世界で生きるしかないんだよ せいぜいそっち側から指咥えて眺めとけ」って感じなので。それも好き。

読んだ本の感想を文字にするのって凄く好きだし、自分の中の整理にもなってるからなるべくするようにしているんだけど、そういう本じゃなかったというか。 なんだろう 感情とか今私が抱いてる思いとか、誰かの考えとかそういうあやふやなものって言葉の外側にあるものだと思ってるから、それを無理やり言葉に形付けすることが時々窮屈になるんだけど、そういう本だった。 言語化ってものすごく便利だけど反面それを固定化する行為でもあると思ってて 例えば私がここにこの本の秀逸だったところとか茜寧の感情とか書いたとして それがまるまる描き切れるかと言われたらそうではないというか 意図せず擦れて伝わってしまう感じが許せない物語だったとでも言うべきか。 難しい 言葉にしたところで ああ、私の言いたいことは言葉の外側にあるんだよなとしか言えなくなるから
目の粗いザルに通るくらいの言語化しか出来ないから言葉って偉大だけどできることってめちゃくちゃ少ないなと感じるな もの凄い良かった
冒頭で茜寧が感じた「この本は誰も知らない私を理解してくれている」って感情とか、愛されたいが故に打算で人と付き合ってる醜さとか、そういう自分を感じるたびに死にたいって繰り返し思うあの感じとか、身に覚えしかなさすぎて。 住野さんってそういう拾い上げが上手いなと思った。 拾い上げが上手いなと思ったし、これは私だけの物語だなとも思ったけど じゃあ十年後に読んでたとして私だけの物語だなって思うかって言われたら多分思わないのが凄い。 今私がたまたま20歳で、20歳の私がたまたまこの物語を読んで、この物語を読んだ私がたまたま茜寧と同じような経験をしてて、だからこその「私だけの物語だと思った」になるものだなと。 "愛されたい"高校生に読んでほしい。 分からないけど、人生を小説に委ねたことがない人が読んだとして私と同じ感想を抱くとは1ミリも思えないし 小説にのめり込んでそこまでする?って多分大勢の人は思うだろうし そういう小説を読む人が拠り所になってるひとで、自分のことが好きになれなくて、自分を変えたいと思ってる人で、そういう人が読んでほしい。

それと住野先生の過去作の中で一番『住野よる』が登場してる話だったな。
最後とか、読んでて少し泣きそうになった。
「小説は食べられない。喉の渇きを潤わさないし、病気も治せない。争いを止められないし、愚かな暴力から守れない。」
「私は、物語が、小説が、誰かを救うなんてこと、ないと思ってるの。」
体の栄養にはならないとしても、不運やウイルスを倒さないとしても。 人が人を傷つけるのを止める力が、人が人を蔑むのを止める力が。 小説や物語にはあると、かつては信じていたはずだった。
「でもね、それでももし、あなたが私の書いた小説に救われたなんてそんな奇跡みたいな、魔法のようなことが起こったと、言ってくれるのなら」
「どうかこの物語が、あなただけのものでありますように」
凄いよね 『腹を割ったら血が出るだけさ』なんて題名だけどさ 小説家って凄いよね 腹を割って自分の感情を真白な紙の上に曝け出してるんだよ 本当にすごい。 それって絶対にめちゃくちゃ怖いし自分と向き合い続けなきゃ出来ないことでもあると思うし そこで歪む人もいると思うし、逆に紙の上では正直に生きられるみたいな人もいるんだろうけど

住野さんも言ってるけど、たしかに物語に、小説に力はないのかも知らないけど、たった一冊の本で世界が急に変わるなんてことはないのかも知れないけど、それでも物語に、小説に数えきれないくらい救われて生かされてる私からしたら、私の世界はたった一冊の本で何回も何回も繰り返し覆されてきたし、それだけのことを出来るんだから凄いよね 誰かの生き方を捻じ曲げるだけの力が白い紙と黒い文字の羅列に潜んでるんだから凄いよね。
そんで世界を変えられた人たちが私だけじゃなくて何十人何百人といたらもしかしたら世界も変わるかも知れないよねって、今ある世界は結果に過ぎないけど、もしかしたら変えられた世界が今かも知れないし、そういう力があるはずだと私は思うんだけど。

あいとじゅりあと茜寧の、他人に対する解釈の違いの対比とかも大好きだった。
他人を勝手に解釈するのも怖いけど かと言って解釈し過ぎないで起きた結果も等しく怖いものだな

うーん 難しいね 取り敢えず一冊の本に人生変えられた女の子の話だったから物凄く好きだったっていう馬鹿みたいに浅い締まらない最後で締めておきます

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