誰だって頭の中に毒がある

いちこは、飲み会で一緒になって以来気になっていた年下男子・早乙女に、ある日偶然遭遇する。「運命の再会」にときめくいちこの脳内では、議長である吉田を中心とする5人のメンバーによる脳内会議が繰り広げられていた。紆余曲折を経て、なんとか早乙女と付き合うことになるいちこ。時を同じくして、早乙女の先輩にあたる、大手出版社の越智から、いちこの連載していたオンライン小説の書籍化の話が持ちかけられる。中々うまくいかない早乙女との関係を越智に相談するうちに、越智は、いちこを結婚相手として意識するようになり、プロポーズ。困惑するいちこ。

大好きだが、何故か喧嘩ばかりでうまく行かず、結婚など考えられないような早乙女と、全くときめかないが、人柄も結婚相手としても申し分のない越智との間で、脳内は日々会議を繰り広げ、紛糾、はたして、いちこと脳内会議のメンバーは、幸せな道を選ぶことができるのか!? いちこ×早乙女×越智の三角関係のゆくえは――!?

出典 舞台『脳内ポイズンベリー』公式サイトあらすじより
https://www.nounai-poison-berry.jp/story.html

「可愛い今どき苺パフェが出されるのかと思って来たら、昔ながらの製法の濃厚苺ジャムを頭からぶっかけられた」
舞台『脳内ポイズンベリー』、率直な感想である。

少女漫画なんて就学時に雑誌『ちゃお』とを通り、母が持っていた川原泉先生の『笑う大天使』などを読んだ程度。
高校時代はわざわざ市立図書館で『忍たま乱太郎』を借りて読んではゲラゲラ笑っていたような女である。
そのため、少女漫画原作というお触れに対して「仕事も恋愛もどうなっちゃうの〜!?な普遍的30代女性のキラキラ恋愛モノ」なんて偏見を持ち、呑気に構えていた。

違った、出されたのは「恋愛というか対人関係ハードモードで生きづらすぎる女が、クソモラハラ男から脱するまでの溺れるダメ恋物語」だった。
見終わったあと、主人公いちこにアンジュルムの『赤いイヤホン』とモー娘。の『シャボン玉』勧めたくなった。いちこ、ハロプロアイドル追いかけた方が人生幸せだぞ!!

※フォロワー朝霧さん(@girigiri_jan)と議論しながら書いたため、朝霧さんのnoteと共通する内容になっています。ご本人の許可は得ています


1、魅力的な感情たちと感情連鎖

上述したように、少女漫画にとんと縁がない人間なので、果たして色恋沙汰の大騒ぎなんてついていけるのか!?と不安だった。

しかし、そんなことは杞憂であった。

そう思わせてくれたのが、5人の感情たちである。まさに「舞台」のための設定といっても過言ではないほどの舞台映えするおもしろーーーーーーい存在だった。
最もいちこ自身と言っても過言ではない、八木勇征演じる議長吉田の迷いっぷりは、いちこなりに最善の選択をしようとあれこれ思考を巡らせている様を見事に伝えてくれた。彼は議長というキャラクターだが、感情機能としてはいちこの「自己決定権」に当たるのかな。あんまりに吉田がオドオドうろうろするので「いちこは優柔不断なんだな」とちゃんと理解することができた。中盤、自己決定を手放す(越智さんと付き合ってるのに早乙女をはっきり拒めず抱かれてしまうくだり)場面も、いちこの弱さの表現として機能していた。
短期間でよく吉田を理解し(いや仕事だからしないといけないんだけど)演じてくれたなあと…大千穐楽後に、不安だった胸の内を吐露してくれて安心した。
負の感情を溜め込むというか見ないふりするタイプだと思うので八木さんは…
タイトなスケジュールで同時進行してたのがライブならまだしも、やりキスとかいう変なドラマだったのが許せねえ。二度と出ないでいいあんなドラマ。
八木勇征の初外部舞台がこの舞台でよかったと、ファンとして安堵している。
LDH作の舞台はもう全て脚本が悲惨だったので…うっっっっっ私の暗黒付箋ページが開いてしまう辞めようこの話は。

個人的にセリフや役割が好きだったのは、木村花代さん演じるネガティブな感情の池田である。間髪入れず、早乙女にダメ出ししまくる様は圧巻だった。フリーターと知るや否やツッコむとこ好きすぎんねん。ネガティブな感情というのは、人にとって「防衛本能」的な役割があると私は思っているので、自分自身=いちこを守るためにあれこれ突っ込んでいく池田はとても共感した。
そんな池田と対をなすポジティブな感情、石橋。その人の良さを見出そうとする善性の感情を、猪野さんが屈託のない笑顔で演じてくれたので「いちこ、性善説みてえな女だな…」と、いちこへの解像度が上がった。
全てがうまくいかず行き詰まった時、真っ先に消える感情はポジティブなのは「その通り〜!!!」である。その結果、残ったネガティブな感情が暴走し、自己嫌悪する流れは人間として至極当然の流れ(石橋が消えてからの後半の流れ)なので、次第に疲弊していく池田の姿は本当に「わかる」の一言に尽きる。

そしてハトコちゃ!!!!ハトコちゃかわいい!!!!!!!!!!!
カテコで出てきた時に、早川夢菜ちゃんと最前列で目が合ってしまい「こんなクソ陰キャなのにごめん腹切ります!!!!!!!!」と私の瞬間的感情が働き、咄嗟に脳内謝罪したのだが、さすが現役アイドル早川さん…ニコっ♡とスーパーウルトラキュートな笑顔を向けてくれた。めっちゃ可愛かった…。
と、早川さんの可愛さももちろん、演じ方も魅力的だったハトコ。パンフで「いちこの感情を一番最初に、かつ大きく表現すること」と仰っていたが、それが舞台ならではの大きな演技として際立ち、観客を楽しませてくれた。嬉しいも気持ち悪いも全てハトコが真っ先に感じる。その法則を作ってくれて感謝である。

舞台進行として適任だった、石黒さん演じる過去を振り返る思考の岸さん。記憶を司り基本的に冷静な彼だからこそ、物語の進行の際に違和感がなく、テンポよく話が進んでいた。時々ちゃっかり石橋たちの選択に乗ってたり、吉田の後ろでお茶目に動いていたりと石黒さんの持っているであろうユーモアさが岸さんの可愛さに活かされており素敵。暗黒付箋のページ=過去のトラウマをつい開きがちという、いちこの不安定さの象徴としてもわかりやすく見応えがあった。いちこがずっと過去に囚われているのを一番肌感で感じている存在なのかもしれない。
そんでこれは個人的な癖ですが、石黒さんぐらいの年齢のベテラン俳優と八木勇征の絡みがドチャクソ好みと気づけました。また共演していただきたい。

そんな彼らがドッタンバッタン大騒ぎジャパリパークないちこの脳内。
パンフで女性陣が語っていたが、「全員がいちこ」という特殊設定めちゃくちゃ難しかったろう。設定上、個体としての名前がついているが「全員いちこ」。
あくまで自分たちは感情、だけども「櫻井いちこ」という人間そのもの。
ハトコはその場の感情を偽らず発言し、池田が噛み付けば石橋がすかさずフォローする。岸は記憶に留めようと書記機能を働かせるも時にはトラウマを呼び出し、いちことして自己決定しなければならないはずの吉田は彼らの間で迷い何も決められない。まさに「感情の連鎖」である。この連鎖が上手い脚本だったので、「もしかしたら私の頭の中もこうなのかな…」「前向きに考えても、いやいやんな訳〜って自分に言い聞かせる時あるよねえ」と彼らを身近な存在に感じさせてくれた。
展開に合わせて動く盆(ステージの仕掛け)の良さもあり、膨大なセリフ量の物語が中弛みすることなく話が進んだのかっこいい。


2、いちこの息しづらさは生きづらさ

あれこれ考える割に優柔不断で突発的行動が目立ち、思考があっちゃこっちゃな櫻井いちこ。たまーに謎の黒いちこなるものが現れ、その度自己嫌悪に陥る…
一緒にいると辛いのに、どうしても早乙女から離れられない…
一緒にいると落ち着く越智さんにはときめかず、かといって振り切るわけでもなく告白を受け入れ、「越智さんを好きになる」と言い聞かせる…
そのくせ早乙女が自分の元に戻ってくると拒めず抱かれてしまう…
物語が進むにつれ、いちこの生きづらさ描写は加速していく。

こういう人、本当にいる。
そんな説得力があったのは、主演の本仮屋ユイカさんの演技あってこそ。
ユイカさんの「ダメ恋陥りがち女性」の生々しい演技。
挙動不審さ、言葉の吃り具合がこう…「あっ…(察し)」させてくる、いい意味で痛々しさがあり良かった。あれで単に大人しいだけの演技されてたら「は〜?生きづれえ女なめんなや」とキレてたかもしれない。
上述した「優柔不断さ」「思考の散らかりよう」「断るという機能のなさ」などが本当にその…ね…心当たりある人には心当たりあるあるで「そういう人」の解像度たっけえのですわ…。

黒いちこはあれかね、「欲望」の表れなのかね。謎の存在ぽくされてたけど。
脳内会議がある種の理性を働かそうとする結果の表現だとしたら、その理性を上回るほどの感情…いちこにおいては衝動的性欲がそうなのだろうか。
根底に潜む欲望が、時に衝動的に自分を動かしてしまう。
黒いちこ=黒苺=毒の苺=ポイズンベリー=脳内には誰だって毒があるかもね〜
なんてことかなと思ったり。

とはいえいちこ、別に黒いちこが出てこなくたって多分早乙女に流されて抱かれてたと思う。あの場面では自己決定に値する吉田が決断を放棄しちゃってたし、いちこは「断る」という機能が恋愛というか対人関係において備わってなさそうなので。
もしくは備わってるけど機能してないことに自分で気づいてない。越智さんからキスされてもまず選択したのは「スルー」だったしね...曲がりなりにも(心がすれ違いがちとはいえ)彼氏いるなら断わるだろうにそれをしなかった。まあ早乙女から心離れてたって解釈も出来るけど、この時点でそんな心離れてるなら最後まで泥沼化しない。

ポイズンベリーは、そんな生きづらさMAXな櫻井いちこが泥沼から這い上がり、息を吹き返す物語だったのだ。
最後、早乙女と別れられて安堵した、本当に。
まあまたダメ男に引っかかるタイプだろうけど、早乙女を自分の意思と言葉で振ることを一応(一応というのは、個人的にその流れに納得してない点があるため…後述します)自己選択できたこと、最後の最後に「越智さんといると頭の中がザワザワしない」と気づけたことは、いちこに差した希望の光である。
ただ越智さんのような人にときめくかは…うーん作家ゆえにスリルというかドラマ性を求め、つい早乙女みたいな周囲を振り回しがちな男に惹かれてしまうのかしら…だとしたらもうどうしようもないね、諦めよう。
どうしようもない人は周囲がどれだけ言っても「だって好きなんだもん!byハトコ(cv.早川夢菜)」とダメ男を選び続けると相場が決まっている.


3、早乙女と越智さん

観劇中、私は早乙女無理無理無理っぴ問題に襲われた。

「完全にクソモラハラ男じゃねえか家で一人キャベツ食えるようになってろいちこはお前の母ちゃんじゃねえ甘えんな」と、お怒り祭りが脳内で開催され、特に2回目見た時は怒りのあまりフォロワーに通話で「あいつなんなの!?」と幕間中愚痴っていた。
ママスタ※でよく特集される「モラハラ旦那」の特徴全部込めました、な男だった早乙女。
※ママスタ…子育て情報からママ友、旦那、義母の話、教育コラム、行政の育児支援などを、四コマや漫画で配信してるサイト。漫画系は実体験が元付いており、脚本担当が毎度つく本気度である。私のイチオシは、「他人同士が価値観を擦り合わせる難しさ、それを乗り越えるためには…」を熱い文脈で見事に表現した『妻の飯がマズくて離婚したい』です。脚本がうまい!!!

ママスタの良さはさておき。
早乙女の「作り手」故の焦りや苦悩は理解できる。
彼女はどんどん先にいく。なのに、彼女は自分の作品に矜持もプライドもなく彼女自身を卑下するばかりなのだ。さらに金銭的に余裕もない。
無自覚才能が身近にいるしんどさは、その分野で成功体験を得ることでしか和らげることはできないし、創作を続ける限り永遠に纏わりついてくるものだろう(じゃあ尚更感情の制御をしろよ、という話なのだが)

でも好きな人を傷つけていい理由にはならないし、いちこが何も文句言わず受け入れてくれるのに甘んじてるだけのクソモラハラ野郎だからなお前!!!
そりゃ自己肯定出来ないと思考はネガティブになるよ!?けどいちこはお前の母ちゃんじゃねえ〜!!!
そんなに自己肯定出来なくて彼女を大事にするどころか当たり散らすぐらいならカウンセリング行け!!!!後半になるにつれて「いちこが成功してると乱れる自分」に自覚あるのがよりタチ悪いよ...
いちこの早乙女への反応、もはやDV受けてる人間の反応だからね!?
早乙女、多分仕事がうまくいってても高圧的な態度とる人間なので別れて正解。
バンドのPVに作品起用が決まったのをいちこに知らせる時の話し方、うまく言えないけどなんか嫌だったんだよな…。いちいち話し方が鼻についてさ…。

いちこの感情に「共感」すらまともにしなかったくせによ〜、いちこの言い分も聞かず押し倒して抱いて「共犯だね...」とかつって許されない恋に酔ってたのもマジで気持ち悪かった。いくらこの時、黒いちこの感情もあったとはいえ。
そりゃハトコも「なんか...気持ち悪い...」ってドン引きだわな。てかハトコ=いちこが、ここでドン引きできる人で良かった。

と、架空の登場人物に対してここまで嫌悪感とを抱かせる白石さんの演技は凄い。本当に凄い。

対する越智さん、彼もまた、いちこ同様トラウマに囚われている人間である。
越智さんの良いところは、いちことの結婚を急いだ理由を「トラウマを穴埋めしようとした」と理由づけできたところ。悲しいのは、そうできたのが寝取られた故という…。悲しい、悲しすぎるよ越智さん。
でも告白の直後に「結婚いつにします?」って言い出した時は「嘘でしょそういうタイプ!?!?やめてよいちこが自分の考え言えるわけないのに断れるわけないのに!!!!」って観客として焦っちゃったよ。あの瞬間に止まるbgm良い。
まあ焦るのもトラウマ故無理はないっちゃないのかなあ、結婚しようとしたら相手が…だったんだから…。いや、でも実家への挨拶急かすのは…無理だ…。

無理だけど、早乙女より遥かに人間性がまとも。
しかしいちこは早乙女への「好き」を諦めきれない!断ち切れない!
…けど、自分がモラハラ受けてる自覚もなさそうだったから、もはや依存状態。
次第に恋ですらなくなり、ポジティブ感情は消え去り、とうとう早乙女は限界に達し、お魚を壊す。


4、何故いちこは立ち直れたのか

ここからは個人的に「惜しい…」と感じたことを綴ります。

いちこ、ここまで述べてきた通り生きづらさMAX人生ハードモードな女な訳ですが、果たしてそんな人間がそう簡単に自力で立ち直れるだろうか。
もちろん最終的に立ち直る力=ポジティブの感情復活と、その決定をするのは己自身である。
その復活に至る過程でとても納得いかない。

中盤、石橋=ポジティブな感情は消え、ネガティブ感情の池田があとは突っ走る。ここまでは本当に説得力に溢れて良かった、良かったのに。

「石橋〜!!」「戻ってきて石橋〜!!」
…いや、ここが恐らくいちこの「立ち直りたい」って意思の表れなのは分かるんですよ。
分かるんですけど、お魚壊されたことでもうドン底に落ちたわけでしょ。
もう早乙女との関係修復なんて絶望的までに感じてるんでしょ。
ていうか、ここに至るまで早乙女から受けた傷やストレスは癒やされてないまま思い出を壊される=トドメを刺されたわけでしょ。
だからハトコは悲鳴をあげ、あんなに辛そうだったわけでしょ。

何故トドメを刺されたことが「ポジティブ感情の復活」のきっかけになるんだ。

もしかしたら、壊されたことで我に帰った…のかもしれないが、それにしては早乙女に優しぎる結末だった。
お魚という思い出を好きな人の手で壊されたことはあくまで脚本上「いちこへの感情的なトドメ」であり、そこから這い上がるには何か別のきっかけが本来あるんじゃないのか。
自分に置き換えてみてください、仕事や人間関係ですっごい辛い思いをした。
そしたらどう切り替えますか?
大抵、好物を食べたりお風呂に入ったり、趣味や好きなことをしたり、話を聞いてもらったり逆に一人の時間を過ごして頭を冷やしたり、人によってはカウンセリングを受けようとする。
まず「自分をどうにか慰めようとする」のが人間じゃないのかい。

しかも、いちこみたいな人間がそういったプロセスを踏まず、誰かに相談するわけでもなく脳内で自己解決して突然立ち直る。
今まで自分だけじゃどうにもならなかったからドン底に落ちてるのに。
にっちもさっちも行かなくなった時って、一刻も早く負の状況から抜け出したくて、もう何かに縋りたくて仕方なくなるもんじゃないですか。いちこにはその描写すらなかった。
「好きなものを思い出す余力さえない、何もかも諦めている」っていう描写ならまだ納得できるんですけど、じゃあ尚更なんで急に「石橋〜!!」なんだよ。
ここが「石橋〜!!」じゃなくて、シンプルに「もうこんなの嫌だよ〜!!幸せになりたいよ…」とかだったらハトコの叫びとして理解できる。

ドン底人間の闇を舐めてはいけない。恐ろしいほど前を向けないのだから。
というわけで石橋の復活に説得力がなく、むしろこれまで丁寧に感情を書いてきたぶん突然雑に扱ったのがとても残念…
※復活するなというわけではなく、役者さんの演技を否定するわけでなく、復活に至る過程に納得がいかないという話です。

じゃあどう復活すればいいの?って話だけど、
復活に関して忘れている存在いません??
岸さんですよ、岸さん。彼こそここで見せ場だったでしょう。
先述した「自分を慰める行動」をとるとき、私たちって無意識に好きなものを思い出して行動することもわけじゃないですか。
「あ、チョコ買って帰ろ」みたいな。
記憶を司る岸さんなら、その役目ができたはず。
「そういえば櫻井いちこは落ち込んだときこうしてましたよね」って、
好きなものでも、それこそ小説を書く楽しさでもいい。
ここでこそ「振り返る思考」を使って欲しかったです。

もう一つきっかけになり得たのが、あずみちゃんから教えてもらった“深呼吸”
これもほんっっっっっとに惜しい。
早乙女を振った後、息できてるか「確認として」深呼吸する場面、良かった。
ただ、個人的にはこれが「立ち直るきっかけ」として、岸さんとの思い出し合わせ技で出してくれても良かったのよ。
岸さんが「こんな時こそ、教えてもらった深呼吸してはどうでしょう」と提案する→実践することで「ああ、息できていなんだな私」と自覚する→落ち着きを取り戻し、もう一度石橋を加えて脳内会議をする→早乙女を振る決断をする→振る→もう一度深呼吸し、息できているか確認する…
素人の考えですけど、こんな流れだったらなあっていう。
まあ、終盤雑だったのは尺問題だったのかもしれないが、いちこの成長としては重要な終盤なので他部分を削るなり何なりしてでも丁寧に描いて欲しかったです。


5、何故いちこは書き続けられたのか

お前まだ文句言うのかよ、ってそれだけ語る余地がある作品だったってことで許してくださいLDH製の脚本は倫理観死んでるせいで語る余地もクソもないの多すぎて、これでも「まともな舞台で良かった泣泣泣」つって喜んでいるんです許してください

いちこがウェブ小説家という設定である以上、避けては通れなかったはずの「作家としてのいちこ」がまるっと抜け落ちていたのは何故だろう。
恋愛ストーリーなのだから必要ないのでは?と思う人もいるだろうが、櫻井いちこという人間を描くのであれば必要不可欠な要素じゃないか。だって“職業”であり恐らく彼女の“やりたかったこと”なのだ。
常にネタ出しに悩んでるとか、ほんの少しでもそれらしき描写があるだけで彼女の解像度は上がるのに何故しなかったのだろう。

もちろん端々に、仕事が成功していく様は描かれていくがあくまで脚本上「早乙女の煽り」という仕掛けでしかなく、またどんな小説かも前半の越智さんとの打ち合わせの中でしか話されない。
舞台のテーマは「脳内会議」なのに、いちこの頭の中には作家として文を綴る者のこだわりも喜びも悲しみも不安も見当たらない。あくまで仕事としか描かれないので、OLに置き換えても不自然でないほど。

いや早乙女への煽り仕掛けで必要でしょ、とも思ったけど、早乙女みたいなタイプは恋人が仕事で成功しようがしまいが「社会人はいいよね、働けば安定してお金が入ってさ」とか抜かしてくるモラ男なので関係ない。
むしろ、早乙女がせっかく創作者という設定であるならば、いちこも創作者としての自分を見つけ目覚めていく様が描かれていてもいいのではないか。
作家としての自覚が育てば、より早乙女への断ち切り方もドラマチックに演出でき、「自分にはペンがある(実際はPCですけど)、たとえ早乙女と離れても自分には生きる意味がある」と自信を持って幕を引けたのではないか。

フォロワーから聞いた話なのでうろ覚えだが、どうやら原作には「らる」「られる」と話し言葉と書き言葉で悩むシーンがあるらしい…。
えっっっっそれだけでいいから舞台に入れてほしかった!!!!
作家なのに作家脳らしさが見えないの、単純に不自然なのよね…
もしかしたら、早乙女にゴリゴリメンタル削られても書き続けられたことが彼女の強みなのかもしれないが憶測でしかない。
作家の自覚がないならないで、早乙女に映画化のこと責められた時に「作家の仕事をとやかく言われて初めて怒りを覚える」とか、作家脳の目覚めが欲しかったぜ。あと書いてる時の喜び(印税と映画化の話が来たときの喜びはあったがあれは名誉的な喜びなので別)もせめてあればなあ…惜しい…
余分なことでもないのにね。


6、みんな幸せになりたいよね

総評
・感情たちの動きや連鎖は見応えがあって良かった。
・人物たちの「こういう人いる感」に説得力があった。
・上記が良かっただけに、描写不足が目立つ場面が後半多く非常に勿体ない
・でも、なんだかんだ「見て良かったな」と思ってるよ脳内ポイズンベリー。
終盤、無事にいちこは早乙女から脱することができた。
過程に納得はできてないが、「早乙女から離れる」という自己決断を下せた結末が美しかった。なんか背景のチューリップが家電屋のハイビジョンテレビで流している風景映像にしか見えなくて、ちょっとフフ…ってなってごめんね感性がゴミカス野郎で…

誰にだって黒いちこのような毒性(欲望や衝動性)はあって、それでも「自分がどうすれば幸せになれるか」と必死に頭を働かせているのかもしれない。
時に選択を間違えることも、自分で選択権を手放すこともあるけど、それもまた人生であり生きてりゃ恋してりゃ進むしかないよね…というお話でした。
私も「どうすれば八木勇征を心穏やかに追えるのか」という議題で常に脳内会議は紛糾しています。

述べてきた通り、いちこの生きづらさはもう染み付いた性分なので
早乙女と別れた後は「もう年下はやめよ…後アーティストも…」ぐらいの認識
なんだろうな。え、絶対そう思ってるよいちこ。息をしろ学習能力〜!!!
全ての年下がやばいんじゃない!自己中心的な人間がやばいんだよ、あとアンタ面食いだから…※面食い説は私の偏見です。

次は隣にいても息ができて、かつドラマチックな人だといいね。

と書いているときにちょうどiPhoneからモーニング娘。の『恋愛レボリューション21(update)』が流れてきたので、最後は「いちこに聴かせたいハロプロ楽曲セトリ」を置いて幕を閉じたいと思います。
演者の皆様、舞台を作り上げてくださったスタッフの皆様、物販と会場スタッフの皆様ありがとうございました。

いちこ、ハロヲタになれ。

アンジュルム
『赤いイヤホン』『次々続々』『七転び八起き』
『愛されルートA or B?』『人生、すなわちパンタ・レイ』『大器晩成』
juice=juice
『イジワルしないで抱きしめてよ』『KEEP ON 上昇志向!!』
『Va-Va-Voom』『Never Never Surrender』
モーニング娘。
『みかん』『シャボン玉』『ザ☆ピース』『泡沫サタデーナイト』




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