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むさぼるように

本が読みたい、と思った。むさぼるように本が読みたい。
そういう風に思ったのは2年ぶりのことだった。

ここ2年ほど私の周りはバタバタと落ち着かず、ほとんど本を読んでいない。
時おり読了した本を1冊読んで、またしばらく間が空く。次から次へと何かに急き立てられるかのように本が読みたいと思ったのは、本当に久しぶりだ。

残念なことに今でも落ち着いてはいないのだけれど。

本が読みたいと言いながら文章を書いているのは、むさぼるように本を読んでいた頃を思い出したからだ。

あれは上京して初めてホームシックになった大学1年の秋。

夏の初めに失恋し(早稲田大学のサークルで出会った埼玉に住むフリーターの男の子だった。なぜ早稲田大学のサークルには色んな人がいるのだろうか)、 夏休みはアルバイトに精を出し、少しばかり帰省し、後期が始まった少しあと。
つまり憧れの東京生活で浮かれ切っていた気持ちが落ち着き始めた頃である。

大学に向かう電車の中で本を開く。講義が終わると大学の銀杏並木をビートルズを聴きながら歩いて、駅に着くとすぐさま本を開く。
ほんの数駅でターミナル駅に着くので、そこでスターバックス・コーヒーに寄り、続きを読む。ひととおり読んだところでジュンク堂書店で次に読む本を買う。自宅に帰り、食事のあとにまた本を読む。

好きな書店はジュンク堂書店だ。
地元にもジュンク堂書店があり、今でも母と街へ出かけると必ず寄る場所。

好きな本は新潮社文庫。
栞がついているし、裏表紙についている応募券で必ずもらえるパンダのグッズも気に入っていた。

スターバックス・コーヒーは、19歳の女の子でも一人で過ごすことが出来るので安全地帯のような場所だった。今になってみると、東京は女一人でも過ごせる場所が多いように思う。

大学時代は、入学式でたまたま一緒になり話し込んだ女の子6人組で4年間を過ごした。
ほとんど同じ講義を取り、昼食も6人集まれる席を学食で一所懸命に探した。
講義の後や休日にはスイーツ・ビュッフェに行ったり、合コンに行ったり、お互いの家に集まってお酒を飲んだ。アルバイトと恋人と過ごす時間以外はずっと一緒といったあんばい。

入学式のそわそわした雰囲気の中で、たまたま集まって話したメンバーだったけれど、途中で分裂することなく卒業したことが今となってはむしろ不可解だ。

それなのに、大学1年の秋(むさぼるように本を読んでいた頃)は、ビートルズを聴きながら銀杏並木を歩いていた記憶しかない。
本当は友だちと一緒にジュンク堂書店に行ったような気もするし、スターバックス・コーヒーで本を読む時間と同じくらい、大学の駅前のドトールコーヒーで恋愛の話(すこし下品なやつだとか)で盛り上がってばかりいた気もするのに。

夏が近いけれど夜はまだ肌寒いから、またあの秋の記憶のように、これから枯れるようにも見える木々を眺めながら本屋に行って、久しぶりにカフェで本を読もう。

うっかり流されてしまいそうな里心をかき消すように。
うっかり明るくないパターンの自分の未来を考えてしまわないように。

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