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先生、帰り道が分かりません

先日また「田舎に帰れ」と東京育ちの知人に言われ流石に堪忍袋の緒が切れて縁を切ったのだけれども、一方でまた別の東京育ちの友だちからは「あなたの方がよっぽど東京の人だよ」と言われることもあって、自分の立ち位置が分からない。
好きなことをし好きな服を着て好きなものを食べているだけなのに、私は嘲笑の対象になりうることが悲しいし、いつまでも東京の人間になれないことが虚しい。

強く東京にこだわっているのではなく、住民登録して納税しても、産まれた土地ではないというだけで、一生ヨソモノ扱いをされるのではないかという恐怖と、結婚しても解決出来ないかもしれない無力感にぐったりとする。

かと言って、私は故郷をもう捨てて東京に魂売ったから耐え抜くつもりだ。

かつて、教師に恋をしていた。
彼は言った「世界中にどれくらいの知識があると思う?そして、それを全てを知り尽くすには、あまりにも人生は短い」と。知に貪欲な大人が眩しかった。彼の頭の中を知りたくて、もっと勉強しようと思えたのだった。

二次試験が迫る頃、こっそり会いに行った先生と一緒に日本地図を見て、東京の場所と距離と行き方を教えてもらった。飛行機で何時間だとか。遠いようで近いんだよ、だとか。
でもね、私は帰り方を聞き忘れてしまったのだった。


私はもちろん教師と交際はしていなかったけれど、あれはきちんとした恋だった。あの時、私の生活の、私の人生の全てだった。

なのに、好きな人と自ら離れる選択肢を選んだのはどうしてだろう。
どうして18歳の私は、私の全てだった人と会えなくなってでも、新しい道を選ぶ勇気があったのか、はたまた単純に何も考えていなかったのか、今でも時おり考える。

先生、私は今も東京にいます。帰り道が分かりません。

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