秋の鹿は笛に寄る。

唐突に書きたいという衝動に駆られたために少しだけ書き綴らせてもらいたい。

窓の外から車が家の前を通り過ぎる音が聞こえる。 カチカチと時計が秒針を刻む音が聞こえる。 カタカタとキーボードを打つ音が聞こえる。

他には何も聞こえない。

私は、今21歳だ。 あと半年もしないうちに22歳になる。

これまでの人生を振り返ってもこれといって煌びやかな出来事はなかったような気がする。

何かに夢中になっていたような記憶も特にない。

だが、そんな私が諦められない・諦めきれないものが一つだけある。

それが「初恋」だ。

初恋が忘れられない人間はきっと多い。 私だってそうだ。

だが、私は忘れられないのではなく諦められないのだ。

その実、私はいまだにいつか彼女と結ばれるだろうと信じている。

が、この想いが実らぬままにもう16年、じきに17年が経過しようとしている。

このままでは20年、30年と時を重ねていくことだろう。 そうなってしまっては枯れてしまうことだってありうる。

私はこの想いが時と共に枯れてしまわないようにこの場に書き残したい。
万一にもこの記事が広まって実ることがあったならそれ以上のことを私は求めないだろう。

これからの文を書くにあたり、まずは初恋の相手を何て呼ぶかを決めなくてはならない。

ひとまずは彼女のイニシャルからとって「Y」と呼ぶ。

私は16年余りの時間「Y」への想いを募らせているわけだが、実を言うと私はその「Y」のことをほとんど知らない。

本来であれば当然網羅しているだろう彼女の好きな事やモノ・場所、習い事とか誕生日でもいい。 普通は好きな人間の情報というのはそれなりに持っていておかしくない。

好きな人間の情報を集めないという方が、こと恋愛においておかしいだろう。

断片的な記憶はあれど「Y」に関する細かな情報を私は持ち合わせていない。



あれは幼稚園の頃だった。

当時5歳程度だったはずの私でも明確に覚えている。

彼女は、「Y」はあまりにもかわいかったということを。

そして私は「Y」に一目ぼれした。

一瞬だった。

園児なんて十把一絡げのはずなのに、ひとりだけ明らかに大きく、明らかに輝いて見えた。

あまりこのような例えを使うことが好きではないが、あえていうならば「夜空に上った太陽」のようだった。

あまりにも眩しく、あまりにも魅力的で、その他の恒星たちではまるで歯が立たなかった。

「Y」を見た瞬間から自身が雄であり、相手が雌であることを知識や言葉なんかよりも先に直感的に理解した気がした。

それから私は幼稚園にまじめに通うようになる。
(それまでの私は卒園後、いまだに語り継がれるほどの入園拒否園児だったというのはまた、別のお話…

親からの情報であるために私がはっきりと覚えているわけではないのだが、私は当時「Y」にキスをしている。

これが私のファーストキスだったらしい。

いったいどういう流れだったのかは皆目見当もつかないがファーストキスの相手が「Y」でよかったと心から思う。

もし、他の人間だったとするならば私は深く後悔していただろう。

他にある記憶はとにかく「Y」にくすぐられていたことくらいだ。
私はくすぐられるたびに死にそうなほど苦しかったが、それと同時にこの上なく嬉しいと思う部分もあった。

幼稚園の3年間で覚えていることはそれくらいだ。


限界的に気持ちの悪い文章に仕上がっているがこれでいい。

むしろ足りないくらいだ。

読んだ人間が身の毛もよだつような怪文書こそ私の気持ちにふさわしいだろう。

世間にすんなりと受け入れられてしまうような恋愛でないことを私は望む。

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