幼い頃怖かったことは?
私が小さい頃怖かったことは、自分のことを人に話すことだった。
自分にとって面白いことが、人にとって面白くない。そのありふれた事実が、喋ることを恐ろしいものにさせていた。
わかってほしかったのである。私が体験したこと、みたこと、聞いたことが、どれほど感動的で、面白くて、最高なのか。私はなんでも自分の体験を人に伝えたがった。しかし、小さい頃の話す技術では、伝わらないことの方が多かった。非常に悲しかった。
今でも忘れられない経験がある。それは小学校の朝の会での出来事であった。私はその日当番で、なんでもいいから日記をみんなの前で読む日であった。私は意気揚々と、当時はまっていた夢水清志郎の探偵ノートの一冊を、笑いを堪えながら発表した。とっても面白かったから、みんな笑ってくれるに違いない、と思いながら。
沈黙であった。誰1人笑わなかった。誰1人。笑っていたのは、私だけだった。
強烈な経験であった。これがいわゆる原体験というものなのかもしれない。
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