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【物語詩】空の模様

 ある日 旅人は気づいた
 どうも空模様がおかしいぞ
 あっちは黄色で こっちは紫色だ
 いつもの青い空はどこ行った?


 空が心配になった旅人は山登りをした
 近くにあった 一番高い山にスルスルと

 頂上に辿り着くと大きな口で空を呼ぶ
「おーい!」「どうしたんだー?」
 すると弱々しい声が天から降ってくる
「なんだか調子が悪いのさ」
「さっきから青くなれなくてね」

 どうやら空は一休みをしたいらしい
 旅人は合点し 助けてやりたいと思い立つ

 旅で鍛えた強くてよく動く足と
 どんなに遠い場所にも届く声と
 体いっぱいに漲っている真心で
 彼はありったけの白雲を呼んだ

「ゆっくりと休んでね!」
 旅人は空に呼びかけ雲のカーテンを掛けた
 辺りは夜のように真っ暗だ
 彼は先程の山でテントを作ると
 星を眺めるように曇天を見守った


 それから3回目の食事を終えた頃
 ふと 旅人は気づいた
 どうも雲行きがおかしいぞ
 だんだん黒くなってきた……

 一面の暗雲は 端の方で小さな雷を放ち
 次の瞬間 ザーザーと雨を降らせ始める
 まるで絵の具が溶け出しているかのように
 色とりどりの雫が そこらじゅうに

 旅人は白い傘をサッと差した
 傘ににじむ雨の模様を楽しみながら
 それでも天を仰ぎ続けた
 まるで神様に祈るかのように


 やがて雨は透明になり
 雲の色も明るく戻っていった
 役目を終えた白雲がどんどん薄らいで
 すっかり元気になった空が顔を見せた

「良かったねえ!」
「ありがとう!」
 旅人は大手を振って空と笑い合い
 いつものような旅を再開した

 すっかりカラフルになった大地と
 満面の笑みを咲かせる旅人を見守り
 空は穏やかに澄み切っている
 雨降って地固まるとは このことか
 なんて 人間の言葉に納得しながら


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