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いつまでたっても治らない

口の周りにニキビができた。
ニキビと吹き出物の違いはわからない。ある程度の年齢になると「吹き出物」らしいけれど、最近薬局を歩いていると「大人のニキビ」なんて表記も見かけて、ますますよくわからない。

ぷっつりできると、どーしても気になる。
もちろん触らないほうがいいことはわかってる。でも気になる。触りたい。触りたいので、薬を塗る。
薬を塗るために触る?触るために薬を塗る?
塗ったところがちょっとスッとして、衝動が落ち着き鏡から離れる。

・ ・ ・

これまで何種類かの薬を買った。
幸い、わたしはそんなに激しいニキビさんではなく、市販の薬を塗るか自然治癒を待つか程度。そんなんなので、陳列棚の前でいつも悩む。

それこそ「大人のニキビ」のためにと謳われた少々お高めのものから、ハンドクリームでお馴染みのナースキャップの女の子が描かれた手頃なものまで、ピンキリなのだが何が良いのかサッパリわからない。
敏感肌でもないので「これは肌が荒れるからだめ…」なんてこともない。効けばいいのだ。早く治ってくれればいいのだ。触っちゃうから。

いまわたしが使っているのは、喫茶店で働いていたときに密かに想いを寄せていた常連さんが教えてくれたチューブの塗り薬。ちょっとお高い。

でも彼女が教えてくれたので、喜んでそれを使っている。
なお彼女にいわゆる恋愛感情があるわけではなく、いちファンとしての慕情を抱いていたのだが、後に再会し現在は一緒に台湾料理を食べに行くなどよき友人である。えへへ。

しかし、そんな素敵な(彼女が紹介してくれた)塗り薬といえ、一朝一夕でやつを消してくれるわけではない。

・ ・ ・

手が汚れたとかなにかの理由でまた鏡の前に立つと、否が応でも目に入る、口元のニキビ。また衝動がむずむず沸き起こってくる。
気になる。触りたい。
触りたい。気になる。
うーん。

表面を撫でてみる。そっと、変な刺激は与えないように、そっとそっと。
状態を確認するだけ。そっとそっと。
『ぷく』
鏡の中わたしの向かって左側の小鼻から指一本分離れて、白くなったところが、ぷくっとしている。しかもちょっと張りがある。

はい。

そこまでは意識的に覚えていたのだが、次にハッとしたのは、『ぷく』が自分のそれぞれの人差し指で左右から押され、パチッと弾けた小さな衝撃を感じた瞬間だった。
はい。ごめんなさい。

手をゆすいで、例の塗り薬をニキビが弾けてちょっと血の滲んでいるそこに丁寧にすりこむ。
さっき塗ったときよりもしみる。
うう。痕になりませんように。

いい薬よりも何よりも、がまんできる心があればニキビなんてどうってことないんだろうな。
トホホ、と自分を慰めるためにバターたっぷりのクッキーを頬張る。


この度は読んでくださって、ありがとうございます。 わたしの言葉がどこかにいるあなたへと届いていること、嬉しく思います。