181021_アクセサリー

あこがれの人

 すてきな人に会いました。

 秋ですからお外でのイベントが目白押しな今日このごろ。
 いや~東京すごい。田舎はせいぜい片手で収まるくらいの選択肢しかないのに、「東京 週末 イベント」って検索してみれば、あっちでは肉フェス、こっちでは蚤の市。
 いや~東京すごい。しかも、ちゃんとお金をかけて運営されているであろうものもあれば、ずうと続いている学区の神社のおまつりもたくさん残っている。
 いや~東京すごい。

 それでですね、わたしはそういうのが好きなのでいろいろと調べるわけでありますが、結局行かないことが多い。理由は特になく、「あ~いい天気だからぼーと歩こ」と言って散歩して終わるとか。
 そんな話を実家にいる母にすれば「ああもったいない」だとか「それもまた贅沢だわ、うらやましい」とか言われるわけです。

 その母がこの週末東京に来ています。
 何日も前からどこに行くか、何が食べたいかなんて会話を繰り返していて、繰り返しているうちにどこに行ったらいいかわからなくなって来るんですね。
 というか、どこでもいいから誰か決めてくれとなり、しまいにはなぜか苛々してくるのです。阿呆なははこであります。

 しかし!母と私は今日はとある喫茶店へプリン・ア・ラ・モードを食しに行くと決めた。しかも夕食はジンギスカンにしようという話になり店も予約した。
 こんなに心強いことはないと、二人で朝ごはんを食べているときから勝利のポーズ。ごちそうさまをしたら食器を洗って服を着、母はコンタクトを入れて、わたしは付け忘れていたマスカラもちゃんと施して、正午頃家を出ました。

 すると。いえから駅までの途中で、市をやっていたんです。おしごとの合間やお休みのとき等などに作られたアクセサリーやら陶器やらカバンやら…各々の作品をもちよって販売するあれです。
 母もわたしもフィーリングを大切にする動物で、真っ直ぐにプリン・ア・ラ・モードへと向かっていたのですが「ちょいと寄り道するか」ということに。

 いろんな作品に視線をおろしながらぐるぐると回っていると、ガラスを使ったブローチと、木製のからくり玩具やキーホルダー等の雑貨が目に入ってきました。それがめちゃめちゃセンスがよくて。
 木のキーホルダーは切符くらいの大きさで(最近は切符を使うこと少なくなったなあ)、長方形の枠に一回り小さな長方形のプレートが収まっているのですが、枠とプレートの真ん中を一本の細い針金だけで固定されているので、プレートの左右どちらか片側めがけて息を吹けばプレートはくるくると回転するようになっているのです。

 それで、プレートの両面に絵が描かれているのですが、HUMORとはこのことかと思い知らされたのです。片面にはツルピカ頭のやさしいおじいさんの顔、もう片面には赤い三角帽子と何かわからん白のモクモク。手にとって見たところで
「吹いてみて」
 と店主に声をかけられ素直にそうすると、サンタクロースが現れたのだ。残像である。
「これは!面白い!!」
 と他のキーホルダーも試してみると、キスをするカップルや手裏剣を投げる忍者、雷門でピースする学生の後ろには幽霊の女が居たのでした。

 そうしたところで視線に気づき顔をあげると、店主がニンマリ嬉しそうに見ているのですね。
「空いているところに、名入れできますからね。」
 店主、サービス精神旺盛である。まだ現役であろうおじさんだった。おじさんといえどお腹は出ていなくて(わたしの部署のおじさんたちはみんなお腹が出ている)、ちょいスリム目の中肉中背で、こんなものがつくれるような器用さを持っているようには見えない感じ。
「どれもアイデアがすごいですね」
 と母。
「こんなくだらないことばかり毎日考えているんですよ。」
 とおじさん。またニンマリした。

 「ああ。」と、思った。
 こういう人をおとなになった少年って言うんだろうな。

 息を吹くとぶたがニンジンを食べているキーホルダーを買って(もちろん名前も入れてもらって)、改めてプリン・ア・ラ・モードへ歩み始め、わたし
「ああいう人に嫁に貰われたい。」
 とぼそっと、隣で母がみけんにシワを寄せたのがわかったので何か言われる前に
「年齢じゃなくてね、雰囲気よ雰囲気。」
とはっきりと呟いた。母は安心と同意を示したのでした。

 おじさんの声は、コントラバスのように低く・深く、わたしの好みでありました。

この度は読んでくださって、ありがとうございます。 わたしの言葉がどこかにいるあなたへと届いていること、嬉しく思います。